その⑤「奇襲攻撃」
「ううっ・・・!」
突然、起きた爆発。立て続けに五回ほど続いた。
直撃は免れたが、衝撃波で縛られた椅子ごと吹き飛ばされた成行。これでロープが緩めばありがたいのだが、そうはいかなかった。
誰がこんなことをした?何が起きたのだ。状況が全く分からない。
白煙で周囲の様子も確認できない。吹き飛ばされて地面に叩きつけられたのは痛いが、負傷はしていない。
煙でむせているときだ。人の気配を感じた成行。
「誰だ?」と、思わず叫ぶ。
すると、また目刺し帽の男が現れた。
だが、コイツはさっきの男じゃない。成行はすぐに気づく。
「無事でよかったな、小僧」
この声は自宅に現れた不審者の声だった。
「死ぬかと思った。これ、アンタの魔法?」
「違う。部下にここを攻撃させた。今、ロープを解いてやる。だから、逃げろ」
不審者の男は刃物を取り出す。鎧通しだ。それで成行の自由を奪うロープを切り始めた。
「助けに来てくれたの?」
「それはおまけさ。狙いはオマエを捕まえた連中だよ」
あの男のことか。
「オマエを監視していてよかった。案の定、上手い具合にもう一度捕まってくれたからな。おかげで、連中のアジトまで来れた」
不審者の男は嬉しそうだ。
「ここ、どこ?今は何時?」
「慌てるなって。ここは日本国の東京さ。まだ、捕まってから三時間ほど。金曜の夜だよ」
それを聞いて一安心の成行。また、日曜の夜ではかなわない。
一方、不審者の男はロープを順調に切っていく。あれだけ解こうとしてもダメだったロープが、いとも簡単に切断されていく。ただの刃物ではなく、魔法のアイテムなのだろう。
「それ、解けた」
不審者の男に起こされる成行。
「ありがとう」
ここは素直に礼を言う。
「上手く逃げろよ。私は連中の親玉を追う」
「待って!」
成行は不審者の男を引き留める。
「アンタの名前は?」
成行が尋ねると不審者の男は鼻で笑った。
「『人ならざる者』さ。そう、私の名を聞けば、みんな顔を蒼くして逃げ出す。じゃあな」
結局、不審者の男は名前を言わずに、その場を去った。あんな中二病のような自己紹介では、どうしようもない。
一人残された成行だが、これで自由の身だ。
「逃げないと」
不審者の男は、ここが都内だと言った。だが、都内のどこかが問題だ。
「そうだ!」
思い出したように自分の通学鞄を探す成行。周囲は暗いが、幸い電気ランタンが一個無事だった。床から拾い上げて、それで鞄を探す。
「あった!助かった!」
鞄は爆風で吹き飛ばされていたが、破損していない。不幸中の幸いだ。
すぐに中を確認する。教科書に挟まる形で、スマホが入れてあった。どうやら、教科書が緩衝材の代わりになったようで、スマホはしっかり機能する。今日ほど、教科書に感謝したことはないだろう。
「助かった。これで連絡が取れる」
「そこまでだ!」
不意にした声。今度は若い男の声。そう、成行を尋問した男だ。
「アンタたち、目刺し帽をやめてくれない?名前もわかんないし、識別しづらいよ」
成行は男を見ながら言う。またも、目刺し帽で素顔を隠している。
「じゃあ、こう呼んでくれ。『隊長』と」
「助かる。シンプルでわかり易い」
成行はそっとズボンのポケットにスマホを隠した。
「悪いが、今ポケットに隠したスマホを渡してほしいんだが?」
隊長と名乗った男は拳銃を取り出すと、成行に向ける。今回はサイレンサーが付いていない。しかも、薄暗いせいで、成行には種類がわからない。正解は、SIG・P229である。
「よく見てるな・・・」
成行はポケットに手をゆっくり入れる。
「ところで、誰かに出会わなかった?」
「私の部下が侵入者と交戦中だ。まさか、キミもお庭番だったとはな」
「お庭番?僕が?」
お庭番とは何のことだ?きっと、あの不審者の男のことだろうが、一体どんな人物か、組織かは成行には想像できない。いつぞやに、見事が言っていた執行部と関係しているのだろうか。
「違うのか?」
「僕は関係ない」
関係ないから関係ないと答える。
「まあ、いい。それよりも、早くスマホを渡してくれ。時間延ばしは、通用しないぞ」
隊長は狙いを定める仕草をする。
「OK、OK。落ち着いて、ゆっくり取り出すよ」
成行はポケットからゆっくり手を出す。そこにはしっかりスマホが握られている。
「よし。それをこちらに投げろ」
「わかった。だから、落ち着いて。撃たないで」
成行は緊張した面持ちだ。そして、スマホを隊長に向かって投げる。
隊長はスマホを受け取ると、それを自分の脇に放り投げた。
隊長の視線が一瞬、成行から離れた。隊長が再度、成行を見る。
すると、成行が右手をかざしていた。隊長に向かって。
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