その④「少佐殿」

 目刺し男は別の場所へ移動した。そこには先日、成行を捕らえた二人の偽警察官がいた。今日は警察官の制服姿ではない。

 二人は男が現れると、気を付けの姿勢で立つ。


 「少佐殿、あの少年はどうします?」

 そう尋ねたのは成行と会話した偽警官。

 「本国へ移送し、調査する」

 男は偽警官から少佐と呼ばれた。

 目刺し帽を取る少佐。金髪で利発そうな顔が現れる。若く凛々しい顔は、絵本の世界の王子様のようだった。


 「あの少年は九つの騎士の書に関して情報を持っていないのですか?」

 少佐に尋ねたのは、成行を麻酔銃で撃った偽警官だ。

 「関係はありそうなのだが、彼には条件魔法がかかっているらしい。それが事実なら、迂闊うかつに尋問できない。本国で尋問する方が賢明だ。それに魔法強化剤の効き目も調査したい。彼は明らかな過剰摂取をしている。たまたまとはいえ、貴重なサンプルになるだろう」

 「では、ここから移動しますか?」

 「そうしよう。フルタ少尉」

 少佐は成行と話した偽警官に言う。

 「カキタ軍曹、車の用意を」

 少佐は成行を撃った偽警官に命じた。

 「はっ!」

 カキタはその場を離れる。


 「調査の進展が望めると思ったのですが・・・」

 フルタが残念そうに言う。

 「私もだ。なかなかヒントのない中での調査だ。分かってはいたが、難しいものだ」

 少佐は近くのパイプ椅子に腰かけた。溜息を吐き、物思いにふける。

 この国へ来てしばらく経つが、調査に進展がない。九つの騎士の書。この国の魔法使いには、半ばお伽話扱いされ、探し求める者も殆どいない。確かに、これでは軍情報部の調査も上手くいかないはずだ。


 「少尉、例の追跡者の情報はどうだ?」

 フルタに尋ねる少佐。

 「はっ!お庭番の調査も残念ながら難しい状況にあります。そもそも、どの魔法使いがお庭番なのか、そのことをわかっていない魔法使いが殆どのようで・・・」

 控えめな態度で答えるフルタ。

 「その辺りは、我々と同じく機密保持がしっかりなされているようだな。その点は、敵ながら天晴だ」

 「軍情報部も、まだ我々が日本国内にいることに気づいていない模様です」

 「それに関しては、そのままで問題ない。我々は軍への報告義務はないからな。だが、連中にも感づかれないようにしないといけない。彼らは味方であって味方ではない」

 「はっ!無論であります。ですが、軍の方は九つの騎士の書を探すよりも、日本国内での工作活動に力点を置いています」

 「それは裏を返せば、九つの騎士の書の探索が上手くいっていないからだ。本国には日本での基盤固めだと報告しているようだが、それでは本末転倒だ」

 「我らも気を引き締めねばなりませんな」

 フルタの言葉を聞いて笑う少佐。

 「その心意気こそ大事だな」

 少佐は椅子から立ち上がる。


 「出発の前に、もう一度彼と話をしよう」

 「私は出発の準備をします」

 フルタは一礼し、その場を離れる。

 少佐は再度成行のもとへ向かおうとした。


 その瞬間だった。

 何かが落下してくる音がした。瞬時に身を屈める少佐。

 次の瞬間、建物内で爆発が起きた。何かがこの建物めがけて落下してきている。ただの落下物ではない。恐らく、砲弾か爆弾の類いだろう。

 少佐は成行のもとへ向かった。


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