その⑧「炸裂の威力」
そして、翌日。木曜日の午後。特訓、二日目を迎える。
成行は昨夜からイメージトレーニングをしていた。オンとオフは、問題なさそうなので、次の炸裂の魔法を放つイメージ。
間違って発動すると危険なため、オンの状態にはしないようにしてイメージトレーニングをした。
昨日と同じく体育用のジャージに着替えた成行と見事。特定ドアを介して、西東村へ向かう。
小屋の外へ出たとき、見事が成行に尋ねる。
「成行君、何かイメージトレーニングをした?」
「うん。したよ」
「感心感心。イメージトレーニングは魔法を扱う上で、重要なトレーニングだからね。スポーツの世界でもイメージトレーニングは大切って言うでしょう?それは魔法も同じなの」
「やっぱり、そうなのね。じゃあ、少しでも、その成果を発揮しないと!」
成行は張り切っている。言葉通り、それで少しでも進歩すれば儲けたものだ。
「じゃあ、始めましょう」
見事と共に、昨日の練習場所へ向かう。
そこには、未だにおかき煎餅状になった岩が山盛になっていた。
「ちょっと待ってね」
そう言って見事は、右手を粉々の岩に向かってかざす。
見事が一瞬、目を閉じたかと思うと、おかきになっていた岩が瞬時に元に戻った。昨日、木端微塵にされる前の姿を取り戻したのだ。
「うお!マジで!」
驚嘆の声をあげる成行。
「今のは、どんな魔法なの?」
すぐさま尋ねる成行。見事の魔法に興味深々だ。
「これ?これも空間魔法の一つよ。私の指定した空間の物体を再生させたの。でも、あくまで物体限定ね。例えば、死んだ生き物を生き返らすとかはできないから」
「怪我は治せるの?」
「うーん。自分の怪我は治したことはあるけど、人様を助けたことはないわ。そういう場面に出くわしたことがないから不明。あと、病気も治した経験がないから不明だけど、個人的には病気治癒はできなさそうな気がするわ」
「そういうのって、勘とかでもわかるものなの?」
「自分の能力を扱う上で、できること、できないことは何となくわかっていくものよ。だから、現時点で成行君自信が気づいていない能力があるかもね」
「炸裂の魔法以外で?」
「そう。特に成行君の場合は魔法強化剤の影響を考えないといけないから、他にどんな能力が開花するかわからないかも・・・」
見事の言葉を聞いて、期待と不安が入り混じる成行。だが、それは次のステップでいいだろう。今は魔力の調整が先だ。
「まっ、今は目の前の課題が優先だから、そっちから何とかしましょう」
見事の声が弾む。
成行は再生した岩に向かって右手をかざす。
「静所さん、炸裂魔法の威力は、『小』でいい?」
一応、確認をする成行。
「待って。『小』よりも、さらに弱く魔法を放ってみて。昨日のことを鑑みれば、成行君の『小』だと、『中』くらいの威力があるかもしれないから」
その場合、『極小』という威力でいいのか。取り敢えず、やってみよう。
「わかった。やってみるよ」
成行は一瞬、目を瞑る。魔力をオンの状態にして叫んだ。
「炸裂!」
岩に何かが激突するような轟音が響く。
岩は無事。だが、大きな岩は少しだけ傾いている。
「おおっ!それでもかなりの威力があるわね?成行君、一旦オフにして」
「うん」
「一緒にきて」
魔力をオフにして、見事と共に岩に近づく。
炸裂魔法の直撃を受けた岩を眺める。ヒビは入っていないが、所々岩が小さく剥がれている。
「成行君の場合、威力を『大・中・小』じゃなくて、もっと細かく分けた方がいいわね」
岩を眺めながら言う見事。
「今のを『極小』としても、かなり威力があるわ。普通の人間相手なら、十分大怪我するレベル」
「どんな感じにすればいいの?」
「例えば、威力を数値化してイメージするのは?」
「と言うと、『レベル1』とか、『レベル2』とか?」
「そんな感じ。魔力の最大値と最小値を決めて、数値化するの。例えば、『レベル5』が最大威力で、『レベル1』が最小威力とか。それは成行君自身がやり易いように決めて」
「うむ・・・」
見事のアドバイスで思案する成行。
確かに、威力の数値化は良いアイディアだと思う。細かく威力の調整ができるのは大きなメリットだ。
「それでやってみようかな?」
「試す価値はあると思うわ」
成行は一旦イメージを練り直す。
今までは『大・中・小』の三段階での魔力だったが、これをレベル1から5までの五段階に変更する。素直に見事の案を採用し、最大威力は、『レベル5』。最小を『レベル1』とする。
「すぐには難しいかな?小屋に戻って考えるのもありだけど、どうする?」
少し唸って成行は答えた。
「そうするよ。もう一回イメージの練り直しが必要みたい」
「じゃあ、小屋に戻ろう。私、調布から何かおやつになるものを持ってくるから」
「うん。お願い」
成行と見事は一旦小屋まで戻る。成行は椅子に座り、魔力のイメージをやり直す。
一方、見事は特手ドアで調布に戻った。
見事は十分くらいで戻ってきた。お盆にバタービスケットとウーロン茶の入ったコップを二つ。さして時間が経っていないので、まだイメージをしきれていない成行。
取り敢えず、ビスケットをかじり、イメージトレーニングを続ける。
「静所さん、やっぱり最大威力から、最小威力をイメージする感じでいいのかな?」
「うん。それでやってみましょう。そこは試行錯誤だから。ダメなら何度でも考え直せばいいし」
見事もビスケットを口にする。バターの風味に笑顔になる。
「焦らなくていいわよ。何も今日中にできないといけないわけじゃないんだから。むしろ、しっかり魔法をコントロールすることの方が優先ね」
「ビスケットを食べたら、もう一回やってみたいな。いいかな?」
「わかった。じゃあ、そうしましょう」
成行と見事はビスケットを一枚ずつ食べて、再度外へ向かった。
外は日が落ち始めている。今日はこの特訓で終わりになりそうだ。成行は練習場所へ戻ると、あの岩に手をかざす。
「静所さん、レベル1から徐々に強くする感じでやってみようと思うけど、どうかな?」
「わかった。じゃあ、それぞれのレベルを言いながらやってみて」
見事は手帳を開き、成行の後方に下がった。
「じゃあ、レベル1」
見事に向かって叫ぶ成行。見事は頷く。
魔力をオンにして、深呼吸。そして、叫ぶ。
「炸裂!」
岩から衝撃音がする。しかし、それは今までで一番小さいように聞こえた。
「じゃあ、レベル2!」
見事に合図を送り、再度叫ぶ成行。
「炸裂!」
今度も魔法が炸裂する音が響く。先程よりも、大きく聞こえ、岩が揺れたようにみえた。すると、見事が言う。
「成行君、どう?自分の想像通りの威力になっている?」
「今のところは」
「じゃあ、今日はレベル3までにしましょう」
「OK!」
見事に手を振る成行。そして、視線を岩に戻す。
「炸裂!」
レベル3の炸裂魔法が放たれた。
先の二回よりも大きな音で、岩が揺れて破片が飛ぶ。昨日と同じく二十メートル離れた所に立つ成行だが、そこまでもパラパラ破片が降ってくる。
破片を振り払い見事に問いかける。
「どう?静所さん。今のを見た感想は?」
メモを止め、見事は成行の方へと歩いて来る。
「ちゃんとできてるわ。私の想像した以上の破壊力にはなっていないし、成行君が順調に魔法のコントールをできているって感じる」
「おおっ!それは喜んでもいいってこと?」
「そうね。師匠としては二重丸をあげます」
「花丸じゃないのね?」
「調子に乗らないの」と、少し呆れた表情をした見事だが、こう続けた。
「でも、着実にレベルアップしていることは私が保証するわ。それは今夜ママにもしっかり報告します。だがら、これからも頑張ろう!」
見事の笑顔に心の奥でドキドキする気がした成行。単純に褒められて嬉しいだけではない。
見事は西の空を見る。
「じゃあ、帰りますか?」
今度は成行の顔を見る見事。
「うん。今日はここまで」
成行は頷く。とても気分良く特訓が終わった。
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