その⑦「再び炸裂の魔法使い」
成行の魔法習得は驚く
まさか、初日で『オンとオフ』の習得ができるとは思ってもみなかった。成行本人。そして、師匠である見事も同じように驚いている。
これは誘拐犯のアジトで飲んだしそジュースが原因だろう。過剰摂取の不安もあったが、今のところ副作用はない。
見事の指示で次のステップへ進むことになる成行。いよいよ炸裂の魔法を放つのだ。
「成行君、中央にある大きな岩があるわよね?あれに向かって炸裂の魔法を放って。ただし、注意点。威力をしっかりイメージすること」
「それは『オンとオフ』みたいな感じで、イメージする指標となるものがあるの?」と尋ねると、「あるわ」と頷く見事。
「威力は『
「
「ええ、そう。難しく考えないでね。発想の仕方は簡単。まず、最大限の魔力を放つイメージを『
見事の指示通り、オンの状態で、『
「まだ、イメージするだけよ。それぞれのイメージが固まったら教えて」
「うん・・・」
成行は目を瞑り、威力のイメージをする。
見事は
「静所さん、準備いいよ」
「じゃあ、試しに威力を『中』で。さっき言った岩に向かって、放ってみて」
成行は岩から20メートル程離れた所に立っている。
目を開ける成行。オンの状態にして岩を見る。スッと右手を指示のあった岩へかざした。
「静所さん、何て言えばいいの?」
「えっ?何のこと?」
「魔法を放つときの決めゼリフだよ。何て言えばいいの?」
「別にそれは無くてもいいわよ。そんな決まりはないし。大事なのは、魔法を放つってイメージの方よ」
そういうものなのか。だが、何か合図ではないが、決めセリフがないと魔法を放つタイミングがとれない。
「じゃあ、行きまーす!」と軽い調子で言った成行。
「うん!やっちゃって!」と見事も同じようなテンションで答えた。
「炸裂!」
次の瞬間、成行の右手の先にあった大きな岩が、凄まじい轟音と共に弾け飛んだ。まるで花火を打ち上げたときのような轟音だった。
「うひゃあ!」と声を上げたのは見事。
思わず身を屈めて、炸裂時に放たれた成行の魔力を避けた。
一方、成行は・・・。
「あいたたたた・・・」
何と5メートル近く後方に吹き飛んで、尻餅をついていた。
「大丈夫、成行君!」
見事が駆け寄る。そして、倒れ込んだ成行を抱きかかえる。
「僕は平気・・・」と、答えつつも尻と腰が痛い成行。痛みに耐えながら前を見れば、先程の岩は粉々になっていた。
「成行君、本当に威力『中』にした?今のは威力『大』でしょう?」
見事は目を丸くしている。
「いや、僕としては、あれが『中』です・・・」
見事に支えられ、ゆっくり体を起こす成行。
「ウソでしょう」
そう言いつつ、見事は木端微塵の岩を眺める。
この岩は、高さおよそ2メートル、幅も2メートルほどある
見事は成行が立ち上がるのを補助する。
「ありがとう、静所さん」
「今日はここまでにしましょう。成行君、魔力をオフにして」
「うん・・・」
成行は心の中で、オフと叫ぶ。スッと魔力が停止する感覚がした。
「歩ける?」
「大丈夫・・・」
「そんな風には見えないけど・・・」
見事は心配そうだが、成行としては取り敢えず大丈夫だ。
炸裂魔法を放った勢いで後方に弾き飛ばされて、尻餅をついた。
だが、骨折はしていない。打撲という程度でもない。先程は痛みもあったのだが、それも治まってきている。こうも都合よく回復してくれるのだろうか。
成行を案じた見事は彼に付き添う。断ったが、肩を貸してくれた。申し訳ないのと同時にドキドキする成行。
小屋に戻る二人。戻ってすぐに見事は小屋の施錠をした。
「一旦、調布へ戻りましょう。成行君」
「うん」
二人は特定ドアで、瞬時に調布市内へと戻った。
※※※※※
静所家での夕食後、成行は見事、雷鳴と共にリビングにいた。
早速、特訓初日の報告を行う。まずは、記録をしていた見事がレポート内容を話す。
「成行君は、『オンとオフ』は初日でほぼ習得完了。正直、びっくりするくらいの成果だけど、それは魔法強化剤の効き目だと思われる」
「僕もがんばりました」
透かさず、レポートに注文をつける成行。
「まあ、成行君のがんばりもありました」
見事はしぶしぶ言い加えてくれた。
「ただ、威力調整にはまだ課題あり。本人にはその気がなくても、『炸裂』の威力が強すぎます。ここはまだ練習の必要あり。今日の報告は以上」
黙って見事の報告を聞いていた雷鳴が口を開く。
「オンとオフが、そんな簡単に習得できたのは凄いな」
「やっぱり凄いことなんですね?」
成行は雷鳴に尋ねる。
「例えば、見事が小さい頃に修業したときは、早く習得できたが、それでも3日はかかったはずだ。アリサも、それくらいかかった気がする」
「習得には個人差があるんですよね?」と、成行。
「ああ。早いと数日。遅くても2週間かかることはない。それを考えると、ユッキーの場合は、凄いというより異常だ。見事、ユッキーがオンとオフの練習をしたのはどれくらいの時間だ?」
「えっと、オンとオフ、両方トータルで1時間もかかっていないはず。待って、もう少し早かったかな?」
見事は手帳を再確認する。それを聞いて唸る雷鳴。
「やっぱり、それだと早すぎだ」
「でしょう?私、思ったのよ。成行君、魔法強化剤の過剰摂取をしていないかって」
少し不安げな表情の見事。彼女の顔を見て、自分まで心配になる成行。
「ユッキー、もう一度思い出してくれ。どれくらい飲んだんだ?
成行を見る雷鳴。
「えっと、沢山かもしれないです。少なくとも、ペットボトル1本分くらいは飲んでいるので・・・」
「昼間も思ったんだけど、何でその辺がアバウトなの?」
今度は見事が聞いてきた。
こうなったら事実を話すしかない。成行は事の
「何でそんなことしたんだ!あり得んだろう!」
これを聞いて呆れながら怒る雷鳴。
「すいません。でも、喉が渇いてたし、ジュースの匂いが凄く美味しそうで、我慢できなくて。それにまさか、魔法強化剤だなんて思いもしませんでした・・・」
申し訳なさそうに言う成行。
「ユッキー。恐らくだが、キミは魔法強化剤の原液を飲んだ可能性が高い。あくまで私の予想だが」と、渋い表情で話す雷鳴。
「原液ですか?」
「そうだ。その魔法強化剤は、
「つまり、僕は誤った飲み方をしたと?」
「そうだ」と、即答した雷鳴。
「僕はどうなるんです?」
「まず一般人のキミが魔法使いになってしまった。それと異常に魔法の習得が早い。これは過剰摂取が原因だろう。あと、それによる副作用がどうかという話だ」
「副作用の話は昼間もしたわ」と、見事が付け足して言う。
「その辺は特訓と並行して記録が必要だな」と、見事を見た雷鳴。
「それに関して、私もそう思ったから記録している」
手帳を指さしながら答えた見事。
「頼んだ、見事」
雷鳴は頷きながら言った。
そして、雷鳴は成行に尋ねる。
「で、ユッキー。体調に変化はないか?異常はないか?」
「それは今のところ、大丈夫です。条件魔法は別としても、魔法強化剤の副作用的なものは感じないです」
今日の特訓を振り返りながら話す成行。炸裂魔法の威力には驚いたが、体調不調はない。今のところ問題なしだ。
「そうか。異状ないなら、取り敢えず経過観察といったところかな。明日も引き続き特訓だな」
「はい。頑張ります!」
威勢の良い返事をする成行。
「見事も、宜しく頼むぞ」
「OK」
これで今夜の特訓報告は終了した。
改めて特訓のことを思い出す成行。
少し緊張したことを覚えている。が、それと同じくらいにワクワクもした。
オンとオフの感覚は明日もしっかり練習しよう。今日できたが、これをしっかり自分に定着させなくては。
あとは威力の調整。これはまだ練習しなくてはいけないだろう。だが、焦らずに着実に。それと副作用にも注意だ。今のところは何もないが、今後もそうかといえば、そこは不透明。自分の体調のことだから、ここには注意せねば。
そんな風に今日の振り返りをする成行。一言、『頑張ろう』っと心の中で呟いた。
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