その④「特訓計画」
調布市内の静所家へと戻った成行。そして、雷鳴と見事の魔法使い親子。
途中、餃子や、その他の総菜を買った。その際に生餃子を50個も購入していた。アリサを夕飯に呼んでも、合計で4人。
50個も餃子が欲しいのかと思っていた成行だが、いざ夕飯になると殆どを食べつくしていた。さっぱり系の野菜餃子だと想像以上に箸が進むのだ。しかも、雷鳴とアリサはビールも並行して飲むので、より箸が進んだようだ。
夕飯は餃子が主役で、それプラス、野菜たっぷりの焼きビーフンと玉子スープ。生餃子は、静所家へ戻ってから焼いた。併せて購入した焼きビーフンも食卓に並んだ。
夕食後、成行の魔法に関する話し合いと決めていたのだが・・・。
「やれやれね・・・」
溜息を吐く見事。彼女はタオルケットを二人分抱えている。
「取り敢えず、これでOK?」
「ええ。ありがとう、成行君」
成行と見事の目の前には、ソファーで寝息をたてる雷鳴とアリサがいた。
二人は缶ビールを合わせて12本も飲んで、とても話し合いをできる状態にない。
成行と見事は酔った二人を、取り敢えずリビングのソファーまで移動させた。
「到底、話し合いは無理ね。この二人」
「少しここで酔いを醒ましてもらうしかないね」
あきれ顔の見事。苦笑する成行。二人も並んで反対側のソファーに腰掛けた。
「まあ、この二人は一旦放っておいて、私たち二人で今後のことを考えましょう」
「うん。話し合って出た意見とかは、後で聞いてもらうってことで」
「じゃあ、お茶を持ってくるから待っていて」
見事が一旦リビングを離れる。
見事がウーロン茶の入ったコップをお盆に載せて持ってきた。
「おまたせ」
「ありがとう」
手渡されたコップから一口だけウーロン茶を飲むと、話を切り出す。
「改めてだけど、僕の修行はどんなことから始めるの?」
「そうね。まずはオン・オフがしっかりできるようにすることがスタート」
「オン・オフとな?」
「つまり、魔法の発動させることからスタートってこと。例えば、成行君の意思に反して魔法が勝手に発動したら困るでしょう?特にキミの能力は、炸裂の魔法だから危険なの」
「確かに。何かの拍子に魔法が発動したら危険だ。周囲の人が裸になりかねない」
真剣そうな表情でろくでもないことを言う成行。すると、呆れた様子で見事が言った。
「あのね、成行君。私が裸で済んだのは、私の方が魔法使いとして上だから。実はあれでも反射的に魔法で自分自身を防御したんだから」
「えっ!それって凄い」
単純に感心してしまう成行。
「それはいいけど、ここは真剣に考えてほしいの。もしも、魔法を使えない一般人相手だったらということを」
「えーと、それはつまり?」
やはり服が木端微塵になるのかと思ったが、見事の回答は
「魔法を使えない人は、魔法を防げないのよ?服が木端微塵どころか、手足や首が千切れちゃう可能性があるんだから」
見事の言葉を聞いて肝を冷やす成行。それは少しも考えが及ばないことだった。
もし見事ではなく、一般人相手に魔法を使っていたら、どうなっていただろう。人の命を左右する事態になっていたに違いない。
成行の強張った表情に気づいたのか、見事はこう言った。
「まあ、そんなに身構えないで。私もちゃんとフォローするから」
「はい・・・」
それ以上、言葉が続かなかった成行。見事の忠告は、かなりショッキングだった。それゆえ、魔法に対して真剣に向き合わなければという責任感が芽生えていた。
「特訓は、明日の放課後からね」
「場所はどうするの?」
特訓は構わないのだが、場所が問題だ。魔法を使うならば、人目を避けなければならない。魔法の特訓に適した場所が成行には想像できなかった。果たしてどんな所で行うのだろう。
「場所はここで」
「ここ?ここで?」
成行は床を指さしながら言う。静所家でやるというのか。どんな特訓なのかわからないが、屋内でできるものなのか。
「家の中で炸裂したらマズくない?」
「まあ、明日説明するわ。実際に見てもらった方がわかりやすいはずだから」
どうするつもりなのだろう。いまいち、想像がつかない成行。
「オン・オフができるようになったら、次が威力の調整ね。ここが難しいかも」
「威力の調整って、炸裂の?」
「そう。成行君の能力って厄介なのよ?単純な攻撃系の能力で、少なくとも普通に暮らしていれば、そんな能力必要ないんだから」
言われてみればそうだろう。炸裂の魔法。聞けばカッコいいが、普通に生活していく上では必要性がない。バトル漫画の世界ならいざ知らず、今こうして暮らしている日本において、何かを炸裂させる場面があるだろうか?全くといっていいほど、必要性がない。
「この能力は使う場面がないのが一番なのかもね」
「アニメとか映画の世界じゃないんだから、必要性はないわね。だからといって、成行君の能力をそのままにしておけないし」
「この能力をコントロールできるようになったとして、また誘拐犯が襲ってきたらどうすればいいの?戦ってもいいの?」
「それはダメだ!」
成行の疑問に答えたのは、
「それはならん」
スッと起き上がり、しゃんとした姿勢でソファーに座り直す雷鳴。
「ユッキーよ。残念ながら私たちの暮らす世界は、ゲームやアニメの世界とは違う。魔法は存在すれど、それは隠さなければならない。魔法の存在が公になれば、世の中は混乱するだろう。誘拐犯の連中が、攻撃的な魔法で攻めてこないのはなぜか?魔法の存在がバレるのは、本意じゃないからさ」
「僕はまだ狙われているんでしょうか?」
「その可能性は高い。何も魔法は攻撃的なものばかりではないし、魔法を用いない攻撃も考えられる」
「魔法を用いない攻撃とは、具体的にどんな?」
「例えば狙撃とか、刃物による攻撃とか。一般人と同じ手法で攻撃してくる可能性は十分考えられる」
「うーん。やっかいですね」
腕を組む成行。
「でも、そうすると僕はどうやって自衛をすれば?この先も自分の身を危険に晒して生き続けなければいけないのですか?」
「そこが難しいわね。魔法で戦うのは、本当に最後の手段と考えて。こんなことは言いづらいけど、まずは逃げて。それにキミの能力で誘拐犯一味を
見事が答えた。
「そう。それは見事の言う通りだ。ユッキーには手出しできない。連中にそう思わせればキミの勝ちだ」
「そういう考え方でいいんですね」
見事と雷鳴の意見を聞いて、なるほどと思う成行。誘拐犯を捕まえる、倒すという風に、自分の中で一方的に話が飛躍していたのかもしれない。
「では、現段階では僕の特訓が優先ですか?」
成行は雷鳴に問う。
「うむ。そうだな。誘拐犯の特定や情報漏洩の調査も重要だが、今は魔法使いになったユッキーの特訓を優先させた方がいいかもしれない。どうだ、見事。異存はないか?」
「私も、それでいいけど、誘拐犯捜しは一旦保留するの?そうすると、当初の話から少し計画変更になるけど?」
「誘拐犯捜しは私に一旦預けろ。ユッキーと見事は特訓に集中するんだ」
「雷鳴さん、特訓中に誘拐犯からの再度、襲撃の可能性はありませんか?」
これが成行の懸念事項だった。自宅での不審者の一件もあったため、警戒しているのだ。
「それに関しては見事の腕を信じろ。見事は私の娘だ。軟な魔法使いには育てていないし、連中が仮にこちらを監視していれば、迂闊に手出しできないことが理解できるだろう。それこそ、見事がユッキーの側にいればな」
「へー。見事さん、信頼されてる!」
おちゃらけた口調で言う成行。
「じゃあ、成行君の特訓は辛口でいこうかな?」
成行の態度に笑顔で答える見事。しかし、目が笑っていない。
「ごめんなさい。お手柔らかにお願いします」
慌てて姿勢を正す成行。
「もう!ちゃんとしてよね?」
頬を膨らませる見事。
「わかりました。師匠」
成行は神妙な態度で答える。
こうして、今夜の作戦会議は、これまでとなった。結局、目を覚まさないアリサは成行が部屋まで運んだ。
明日から、いよいよ特訓か。不安もあったが、同時に何かワクワクする気持ちもある成行だった。
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