その③「隠し事」

 三人で調布へ戻る車中。成行は後部席へ座り、ジッと外を眺めていた。

 見事も、雷鳴も成行が出会った不審者の話を一切しない。つまり、二人は先程のことに気づいていないのだ。


 不審者の言いなりになるつもりはない。だが、先程のやり取りを、二人に話すべきかどうか迷っていた。

 あの男は、喋れば命がないと言った。脅しが恐いというより、見事や雷鳴に害が及ぶ方が恐い。それに少なくとも、あの男は誘拐犯一味ではないだろうし、提示された条件が本当ならば、それは悪くない。


 あの男は言っていた。自分で考えろ、と。あれは何かの罠か?将又はたまた、本当にそのままの意味で受けとってよいのか?成行はそれをジッと思案していた。


「どうした?ユッキー。ジッと外を眺めて。何かあったのか?」

 不意に雷鳴から話し掛けられて、ドキッとした成行。透かさず答える。

「いえ、一流の魔法使いっていうのは、どんなものかと思って」

 口から出まかせを言って誤魔化す成行。

「難しく考えているな。まあ、今は慌てないことだ。だろ?お師匠様?」

 雷鳴は見事を一瞥した。


「もう!ママ!」と言いつつ、見事は後部席を見た。

「でも、こうなった以上は、私がちゃんと成行君を指導します。だから、成行君もちゃんとしてね。でも、最初は基礎から学んでいけばいいから、いきなり難しく考えない。それはママの言う通り」

「わかりました、お師匠様」

 少しオーバーに頷く成行。

「成行君、次にその呼び方したらお仕置きね」

 ニコッと微笑む見事。


「すいません。笑顔でお仕置きとか言わないでください」

 雷鳴へ助けを求める視線を向ける成行。

「コラコラ。弟子を脅すな、見事」と雷鳴はフォローしてくれた。

「脅してないわよ!むしろ、敬意を払ってないのは、成行君の方でしょう?」

 ムスっとした様子の見事。


「成行君、ちゃんとしないと、弟子じゃなくて、使い魔扱いにするからね」

「使い魔って、そんな!カラスやフクロウじゃないんだから!」

 使い魔扱いだと、まるで人間失格ではないか。成行は見事に抗議する。


「今時、鳥類ちょうるいを使い魔にする人って、そんないないわよ?」

「えっ?じゃあ、何を使い魔にするの?」

「柴犬とか、三毛猫とか?」

「いや、それただのペットだよね?一般家庭にもいるよね?」

「もう、細かいことは気にしないの!弟子のくせに生意気!」

 ツッコミたいことはまだあったが、ここで一旦終了。これ以上言って、見事の機嫌を損ねるのは得策ではない。


「ユッキー、見事。今夜、アリサを呼ぶ。今後のことを話し合おう」

 雷鳴が二人に話し掛ける。


「今後のことですか?」

「ああ。アリサにもユッキーの現状を知らせておきたい。情報共有な。それに見事が師匠とはいえ、私やアリサも見事もフォローしないとな」

 見事にウィンクする雷鳴。


「ありがと、ママ。私の弟子は問題児だし」

 見事は成行を一瞥する。

「そんな!問題児だなんて、僕は―。あっ!問題、起こしてるね。僕・・・」

 そうだった。見事の衣服を木端微塵にしたのだった。


「夕飯は見事の好きなものにしよう。美味い物を食べてやる気を出してもらわないと」

 雷鳴はカラカラ笑った。


「お姉ちゃんが来るなら、みんなで餃子!」

「餃子か!いいね!ビールの親友だ!」

 嬉しそうに言う雷鳴。早くも晩酌のことを考えているのだろうか。

「ユッキーも、今夜は餃子でいいよな?」

 雷鳴から意思確認される成行。

「御意にございます」

 恭しく答える成行だった。

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