その②「見事の焦り」

 見事は森林ゾーンの一番奥、あの満月の広場にいた。ベンチに腰かけて待ち合わせ。

 彼女が帰りの支度をしていたときだ。机の中からペンケースを取り出すと、そこには付箋が貼られていた。



『確認したいことがあります。二人だけで話をしたいので、放課後に満月の広場で待ってください。僕もそこへ向かいます。成行』



「何なのかしら・・・?」

 満月の広場へ着いて、早くも四十分経とうとしている。成行が日直であることは知っているので、直ぐには来ないと思っていた。しかし、いくら何でも遅くないだろうか。


「さすがに遅すぎよね・・・」

 成行にメッセージを打とう考えた見事。

 不意に誰か近づく気配を察知した。今、空間魔法を発動しているので、誰が森林ゾーンに接近すれば、すぐ感知できる。


「おーい!見事!」

 見事を呼ぶ声が遊歩道から聞こえた。聞き覚えのある声だ。満月の広場へ繋がる遊歩道に目を向ける。


 と、そこから一匹の猫が現れた。あのハチワレ猫・ゴマシオだ。

「見事、ここで何をしているニャ」

 ゴマシオは見事の足元へ駆け寄る。

「待ち合わせよ。成行君と」

 少しだけ嬉しそうに答える見事。思えば、ここは成行と見事が出会った場所。そんな風に考えると、少し気恥ずかしい。


「そういうことだったのかニャ。空間魔法を発動している理由は。でも、成行はもう帰ったニャ」

 見事はゴマシオを抱き上げる。

「何で?そんなハズないわよ?成行君が私宛にメモを残して、ここで話があるって」

「ニャア?でも、もう帰ったニャ。ニャアは、しかとこの目で見たニャ。バス停へ歩いて行ったニャ」

「えっ!いつの話?」

 猫の一言に、一抹の不安を覚える。


「それ、どういうこと?成行君はどこなの?」

 思わずゴマシオを揺さぶる見事。

「落ち着くニャ!ニャアを揺らしても何も出てこないニャ」

 ゴマシオをベンチの上に置く見事。


「どれ位まえの話?成行君が帰ったのは?」

 言い様のない不安が見事を焦らせる。

「もう三十分以上前だニャ。成行から連絡は?」

「ないけど・・・」

 見事はすぐさま、自分のスマホを取り出す。すぐに成行の電話番号をダイヤルした。


 しかし、成行が電話に出ない。何かがおかしい。見事の勘は異変を感じ取っていた。

「どうしよう?何があったのかしら?」

「ママに連絡するニャ。何か知っているかもしれないニャ」

「わかったわ」

 見事はすぐに雷鳴へ電話する。発信音がもどかしい。早く電話に出てくれないか。


『もしもし?』

「ママ?電話に出るのが遅い!」

 慌てているせいで語気が強くなる見事。

『何だ、いきなり。何かあったのか?』

「成行君を知らない?何か連絡はあった?」

 勢いよく喋る見事。


『ちょっと落ち着けって!何があった?最初から話せ』

 見事は落ち着いてことの顛末を話す。

『ユッキーから連絡はないぞ。何も相談とかもされていないし。ユッキーとは連絡がつかないのか?』

「つかないから電話したの!何かあったのかな?」

 不安げな表情の見事。


『わからんが、ユッキーに連絡し続けろ。私は今から学校に向かう。合流しよう』

「うん、お願い。学校で待つわ」

 ここで一旦、電話を終了。見事はゴマシオを見る。

「成行君とは何も話してない?」

「話してないニャ。まさか、待ち合わせしてるなんて、知らなかったニャ」

「そうよね・・・」

「とりあえず、ここを離れてママを待つニャ。その間に成行へ連絡し続けるニャ」

「わかったわ」

 見事は鞄を持つと、遊歩道へ向かい走り出す。


「見事、そんなに慌てんニャ!」

 ゴマシオもすぐに見事を追いかけた。

「成行君・・・」

 この言い様のない不安感は何だろう。嫌な予感とは、まさにこのことかもしれない。

 成行を探さないといけない。そんな焦燥感にかられる見事だった。


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