その④ 「炸裂する魔法使い」
「さっき、遊歩道を歩く
先程の
すると、それを聞いた見事は目を丸くして驚く。
「成行君、本当に寒気を感じたの?」
「えっ?うん。今日はそんなに寒くもないでしょう?もしかして、静所さん魔法のせいかなって思って」
「本当に?本気で言ってる?」と、成行に迫り来る見事。あまりに真剣なので、成行は引いてしまう。
「うん、本当だよ。それとも、僕って風邪ひいたのかな?」
「違うわ。やっぱり成行君、魔法が使えるようになってるのよ!しかも、そこそこ才能があるかもしれない!」
少々、興奮気味な見事。だが、成行は冷静にこう言う
「そんな、まさか・・・」
先日、飲んだしそジュースに魔法強化剤の疑惑が出ている。しかし、あれはそんな
「あのね、成行君。私の使った魔法は、一般人には感知できないの。さっき、成行君は寒気って言っていたけど、魔法が使えない人は何も感じなかったはずなの」
「そういうものなの?」
「そういうものよ!」と、強気に答える見事。
見事の意見が本当なら、自分は魔法使いになっていることになる。そんな風に言われると、思わずこんな考えが芽生える。
「魔法が使えるの?じゃあ、何か試してみたいな」
「待って!」と、見事から透かさず待ったがかかる。
「いい?成行君。取り敢えず、何かイメージしてみて。最初にパッと思いついたこと」
見事はゆっくり成行を宥めるように話す。
「それが成行君自身の魔法となって発動するはずよ。あっ!ただし、あまりも攻撃的な連想はダメ。地震が起きるとか、隕石が落ちてくるとか。そんなのはダメだから」
見事は忠告も交えつつ、アドバイスしてくれた。
「わかった。やってみるよ」
成行は今の話を意識しながら、連想を始める。
「今なら私の能力で誰もここへ来れないし、見られる心配もないわ!安心して」
一方、成行本人よりも興奮気味な見事。
「じゃあ、え~と・・・」
「考えちゃダメよ。なるべく自然体で。何か『言葉』を連想するのもOKよ?例えば、水とか、風とか」
しきりにアドバイスしてくれる見事をよそに、成行は何か浮かんでこないかと唸り続けた。
「一旦ストップ。いきなりは難しいよね。ここじゃなくて、家へ帰ってからにしましょう」
すぐ答えが出ないと判断したのか、見事はそう言ってきた。しかし、彼女からそう言われた瞬間だ。成行の頭の中で、とあるキーワードが浮かんだ。
「そうだ!炸裂だ!」
思いついたとばかりに、大きな声を出してしまう成行。
「炸裂?何が?」と、怪訝そうな表情の見事。
「えっと・・・。服とか?」
思いついたことを口にする成行。
「服?」と、首を傾げる見事。
「うん、服」と、頷いた成行。
成行と見事は思わず目が合った。
次の瞬間、耳を
これぞ、木端微塵だ。青いダブルのブレザーも、赤いネクタイも、ブラウスも、スカートも。無論、見事の下着まで弾け飛んだので、彼女は成行の目の前で全裸になってしまった。
「ぎゃああああああああああああああああああああああ!」
「うわああああああああああああああああああああああ!」
成行と見事は、二人揃って腹の底から大声を出した。
※※※※※
成行は必死で遊歩道を走っていた。
見事に命じられ、成行は彼女の通学鞄を取りに向かった。その中に体操着があるから、それを持ってこいと言われたのだ。一目散に教室へ向かう成行。
見事の通学鞄を抱えて満月の広場へ戻ってきた成行。が、広場に誰もいない。
「静所さん!どこですか?」
成行が呼びかけると、背後の草むらから不意に手が出る。
「早く鞄を投げて!こっちに!」
「あっ!はい!」
見事は草むらに隠れていたのだ。成行は手の上がった方向へ鞄を投げた。
「覗いちゃダメよ!覗いたら、生まれてきたことを後悔させてやるんだから!」
草むらから大声で警告する見事。
「大丈夫です!もう、さっき見たんで!」と、大きい声で返事をした成行。
「うるさい!バカ!」と、さらに大声で言い返されてしまった。
成行は一旦、満月の広場の外へ退却した。取り敢えず、見事の着替えが終わるまで待つのが最善だ。
満月の広場へと続く下り坂で待つこと、およそ15分。見事の声がした。
「成行君!成行君!」
「はーい・・・」
気が重いが行くしかない。自分の責任で起こしたアクシデントだ。どんな罰が待ち受けているのか。
広場へ戻ると、体操着姿の見事がベンチの前で立っていた。
やけに笑顔の見事。しかし、彼女の目だけが笑っていないことに、すぐ気づく。
「成行君、ここへ座って」と、見事はベンチを指さす。
言われるがまま、ベンチへ腰かける成行。見事の笑顔に恐怖を覚える成行。
「えっと、ですね。まずは謝罪会見をしたいのですが?」
強張った表情で見事に尋ねる成行。
「私は軍法会議をしたい気分なんだけどな!」
握り拳を作りながら話す見事。
魔法でとんでもないお仕置きをされるくらいなら、一発ぶん殴ってもらった方がまだマシかもしれない。
「ここは
思わず地面に正座し、地べたにおでこを着ける成行。
「成行君、失格ね」
「えっ?」
見事を見上げる成行。
「失格よ。魔法使いの掟でね、魔法を悪用すると、失格になるの。成行君がしたことは、『魔法を用いた
「そんな掟があるんだ・・・」
見事の言葉に怯える成行。
「成行君、君は今こうして魔法が使えた時点で、キミは『一般人』から、『魔法使い』へと扱いが変わります。そして、魔法を使って悪さをしたので『失格①』になりました。今日のことは、ママとお姉ちゃん、それに東日本魔法協会へ報告します。何か質問は?」
終始、威圧的な口調だった見事。
しかも、未だ笑っていない目を見れば、どれほどの怒りを堪えているか。考えただけで恐ろしい。
「あの、僕にビンタしてもいいので、許してもらえませんか?」
恐る恐る尋ねる成行。
「じゃあ、こういうのはどう?ハリウッド映画のワンシーンみたいに、ジャン・クロード・ヴァンダムみたいな回し蹴りを受けるのは?」
「嫌です・・・」
見事の提示した案は、魔法を用いなくとも恐ろしいお仕置きだ。
「本当なら切腹ものの案件なんだけどね?成行君のしたことは」
見事の妙に優しい口調が、成行の恐怖を却って煽る。
「僕は生きて静所さんに償いたいです・・・」
「わかった!そこまで言うなら、私も魔法使いであっても、鬼じゃないです。成行君のしたことは不慮の事故として、海よりも深く、空よりも広い心で、涙を呑んで、我慢するわ」
「許してくれるの?」
「許さないけど、処分保留ね。魔法で悪さする者のお仕置きは執行部の仕事だから」
『執行部』という怖そうなキーワードが気になったが、今この場でのお仕置きは回避されたようだ。
見事はスマホを取り出す。
「ママに迎えに来てもらうから。この格好でバスに乗りたくないし」
今の彼女は、白い体操服に、紺色ブルマを穿いた姿だ。生憎、ジャージは持っていないらしい。
見事の電話をする傍らで成行は考えていた。どうやって魔法を発動したのかについてだ。が、つい先ほど起きたことなのに、どうやって魔法を発動したのか思い出せない。思い出せないというより、そもそも発動させた気がしなかった。
ゲームやアニメなどでは、主人公が魔法を発動させるために呪文を唱えたり、決めゼリフなどを言ったりするのだが、自分はそんなことを一言も
見事に言われるがまま頭の中で言葉を連想し、その結果、思いついたのが『炸裂』だった。魔法使いになりたてで、これが凄いのかどうか判断しがたい。
「帰りましょう。成行君」
「えっ?僕も?」
見事の発言に驚く成行。魔法で見事を素っ裸にしたのだ。てっきり静所家を追い出されるのかと思っていた。
「当たり前でしょう!」
「いや、静所さんをとんでもない目に遭わせたから、家を追い出されるかと思って・・・」
「それに関しては怒り心頭だけど、むしろ魔法が使えることがわかった時点で成行君を放っておけないわ。今の出来事は見られていないはずだけど、キミが魔法を使えるようになったことを誘拐犯が知ったらどうなると思う?また、狙われるかもしれないわ」
「確かに・・・」
「それに今の成行君は魔法を使い方が一切わかっていないはず。そんな状態で外を歩いてもらったら困るし」
ピリピリした雰囲気の見事。あんな目に遭わせれば、無理もない話だが。
「じゃあ、帰りましょう」
成行は見事の通学鞄を持とうかと尋ねたが、彼女はあっさりそれを拒んだ。
見事はさっさと遊歩道を進んだ。成行の黙ってそれに続いた。
気まずい空気が堪らなく苦痛だった。それが二人の歩く距離感に表れているようであった。
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