その③「遺留品はどこに?」

 火曜日の放課後を迎えた。今日、見事は日直なので、成行とは森林ゾーンの入口で待ち合わせということになっている。


 成行が森林ゾーンの入口に着いたとき、そこには誰もいなかった。それもそうだろう。放課後、ここにようがある者など、基本いないのだから。


 成行が到着して10分後、見事がやって来た。

 「遅くなったね。ゴメン」と、見事は駆け足で来た。

 「いいよ、大丈夫。じゃあ、中へ行こう?」

 「うん。成行君から進んで。私は対策をするから」

 見事の言うとは、言うまでもなく魔法を使うという意味だろう。


 「成行君は先に満月の広場まで向かって。私もすぐに追いかける」

 「了解」

 成行は遊歩道を一路、満月の広場まで向かう。

 思えば、全ての始まりの場所へ。今日も天気は悪くないのだが、遊歩道は相変わらず薄気味うすきみ悪い雰囲気だ。


 不意に身震いをする成行。何かヒヤッとするものを感じた。

 周囲を見渡すも、異常は見られない。このような状況では誘拐犯の奇襲攻撃も排除できないが、今に限っては考えづらいだろう。

 それこそ、見事は今まで以上に警戒しながら魔法を発動しているだろうし、不審者を決して見逃しはしないはずだ。


 見事の魔法を信頼しつつも、気は抜かないよう心がける成行。それでも、今できることは、周囲をより注意深く眺めることくらいだが。


 何事もなく、無事に満月の広場へ着いた。ここにも人影はなし。

 さっそく、広場の周囲の草むらをじっくりと眺める成行。だが、誘拐犯の手掛かりになりそうな遺留品はない。


「う~ん。ないな。何も」

 落ちていた棒切れで草むらをかき回すも、手掛かりは出てこない。

「成行君、どう?何かある?」

 不意に見事の声がする。彼女も満月の広場へと着いた。


「何か遺留品はないかと思ってさ。ところで、今の状況はどうなっているの?」

「状況って、魔法のこと?」

「そう。何か目に見えない結界みたいなものでも発動中?」

 成行は満月の広場の出入口へ目を向けた。すると、前回と同じく広場への出入口が途絶えている。


「これは、この前に静所さんに呼び出されたときと同じなの?」

 成行は、満月の広場の出入口があったはずの場所を指さした。


「前回よりも強力にしてあるわ。わかり易く言えば、二重に結界をかけている状態ね」

「それはどんな状態なの?」と、首を傾げる成行。

「とにかく誰も寄せつけない状態ってことかな?この森林ゾーンへ接近させないようにしているの。さらに、つまり魔法を用いて、ここへの接近を試みる者がいれば、すぐに感知できるわ」

「なら、魔法まほうこんを探すのを邪魔される心配はないってことだね?」

「そう。ただし―」

「ただし?」

「相手が私より格上だとヤバいけどね」

 見事は苦笑しながら周囲を眺めた。


「見事さんより凄い魔法使いっているの?」

 見事の魔法使いとしての凄さや、強さ加減かげんがわからない成行だが、何となく凄い魔法使いではあると考えている。

「数少ないけど、いると思うわ・・・」

 そう答える見事は少し元気がないように見えた。やはり、雷鳴から言われたことを気にしているようだ。


魔法まほうこんって、どうやって調べるの?僕にも探し方を教えて」

 見事の様子を見て、自分も力になりたいと考えた成行。彼女に魔法まほうこんの調べ方を聞いてみる。


「もう調べてるわよ?」

 そう言う見事だが、彼女は周囲を見渡しているだけにしか思えない。

 周囲の草むらや、時折、空を見たりもしている。その仕草は、魔法を使っているという雰囲気がしない。それとも、凄い魔法というものは、静かに発動するものなのか?


 だが、数分すうふんほどで、見事は周囲を見渡すのをやめた。

「ダメ。無いわ」と、見事がネガティブな言葉を発する。


「それに目が乾く、これ」

 そう言いながら目を瞑り、背伸びをする見事。

 魔法まほうこん調べが終わったようだが、結果がかんばしくない様子だ。


魔法まほうこんは、無いということ?」

「その通り。自信があったんだけどな。かなり細かい魔法まほうこんでも察知できるのよ、私」

 結果に満足できない様子の見事。


「雷鳴さんが言っていたように、盗み聞ぎした奴が魔法まほうこんを消していた可能性は?」

「『消した』というよりも、『出していなかった』が、正しかったかも。又は、そもそも盗み聞きする人はいなかったのかも?」

 見事は腕組みをしながら話す。


「えっ?でも、それだと何か余計に迷宮入りしちゃうんじゃないの?」

「そう。原因不明。それとも、別のタイミングなのかな?」

 そう言いつつ、ブレザーのポケットからスマホを取り出した見事。彼女はメッセージを打ち始める。

「ママに速報を入れないとね」

 どうやら今の結果を雷鳴へ打電メッセージしているようだ。


「ちなみに静所さん。例えば、今の状況で、ここから一キロ離れた場所から、僕たちの会話を盗み聞ぎする魔法とかないの?」

 思いつくアイディアを見事へぶつける成行。


「今の状況だと無理なはず。だけど・・・」

 最後の方は少しトーンダウンする見事。

「理論上は可能よ。あとは相手の魔力次第かな?私より、魔力が上なら可能。下なら無理。そこが分かれ目ね」

 スマホをブレザーのポケットへしまう見事。


「収穫無しね・・・」と、残念そうに言う見事。

「静所さん、一ついい?」

 成行は先程、気になったことを尋ねてみる。

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