その②「誰の責任か?」

「待て、見事」

 一旦、見事をなだめる雷鳴。


「お前を疑っているなんて言ってないぞ。私が言いたいのは、本当にあの場で、盗み聞ぎしていた者がいなかったのかという点だ」

「だから、私はあのときに限らず、あそこで魔法の話をするときはいつも周囲に注意を払っていた。周囲に人はいないか。魔法使いがいないか―」

「では、何でユッキーにゴマシオとの会話を見られた?」

 雷鳴は強い口調で言う。


 ゴマシオと見事との会話を見たことが、今この瞬間へと繋がっている。

 見事が周囲への警戒を怠っていないと言うのであれば、成行が猫と女子高生の会話を見ることはなかっただろう。


 しかめっ面で項垂れる見事。

「見事、お前の才能を疑うワケじゃない。だが、これは重大な過失なんだ」

 雷鳴は成行を見ながら言った。

「待って、ママ!私、本当にちゃんとしていた!油断とか、気を抜いていたとか、そんなんじゃないよ!本当だよ!だから、私にもわからないの。どうして、あのとき成行君が私とゴマシオのいる場所へたどり着いたのか」

 目が潤んでいる見事。彼女の反応を見て、成行はこう言う。


「例えば、こんなことは考えられませんか?誰かが見事さんの魔法を妨害していたとか?だから、僕が偶然あの場所へとたどり着いてしまった」

「誰がだ?」と、問いかけてくる雷鳴。

「えっと、誰が?そうですね、誰でしょう・・・?」

 あっさり答えに窮する成行。


「考えてみれば、全ての話はそこへ回帰するな。なぜ、見事とゴマシオの会話をユッキーが聞けたかだ。見事の主張通り、魔法での対処をしていたら、そもそもユッキーは見事に出会えないはずなんだ」

 腕を組んで考え込む雷鳴。

「僕は見事さんの主張にウソはないと思います。猫との会話を見た日の放課後。森林ゾーンに呼び出されたとき、見事さんの魔法を見ました。空間を操る魔法でいいんですよね?見事さんもゴマシオと会話したとき、あんな風に魔法を発動していた。それでいいよね?」

 見事へ同意を求める成行。

 無言で頷く見事。フォローしきれているかわからないが、必死に見事を擁護しようとする成行。


「そう。そうなんだよ。だとすると、新しい問題発生だ。なぜ、ユッキーが見事とゴマシオの会話に鉢合わせたのか?」

 雷鳴も答えの出ない疑問点に悩まされる。話は解決どころか混迷する様相を呈してきた。


「見事、聞いてくれ。お前の魔法使いの才能は確かなものだ。腕の立つ魔法使いだ。だが、そうは言っても見事より格下の魔法使いばかりじゃないはずだ。言うまでもなく、気配を断つ魔法もあるし、見事と同じ能力を持つ者もいるかもしれない。だから、他の魔法使いがあの場所にいたとしても不思議ではないんだ」

 雷鳴は、見事が誤解しているかもしれないと思ったのだろう。だから、ゆっくり言葉を選びながら慎重に話した。

「質問してもいいですか?」と、手を挙げる成行。


「何だ?」

「魔法使いには、誰が、どんな魔法を使えるのか、という情報はないんですか?」

「ユッキー、いい勘をしてるな」と、思わず微笑む雷鳴。

「実はそういったデータベースがあるんだ」

「あるんですね」

「ああ。だから、そのデータベースへの照会もしてみる。これは私がやる。これで誘拐犯を見つける手立てになればいいが」

 そのデータベースをもとにすれば、誘拐犯を繋がる手がかりを得られるかもしれない。成行は少しだけ安堵する。


「でも、安心はできないぞ。ユッキー」

「えっ?」

「それはなぜだ?見事、どう思う?」

 今度は鋭い視線を見事に向ける雷鳴。


「無登録魔法使いの犯行の可能性があるから?」

 見事は躊躇ためらいがちに答える。

「その通りだ」

「無登録魔法使いって、なんのことですか?」

 成行は見事に尋ねた。

「『無登録魔法使い』とは、データベースに載っていない魔法使いのこと。基本、それはあり得ないはずだけど、その存在は否定しきれないの・・・」

 見事は不安げに答えた。


「見事の言う通り、『無登録魔法使いは存在しない』というのが日本の魔法使いの公式見解だ。だが、その存在を100%否定しきれないのが実情でな」

 雷鳴はため息を吐きながら、その辺の事情を話し続ける。

「私たち魔法使いの懸念事項は、魔法使いが魔法を悪用しないかという点なんだ。軽微な犯罪から、大規模なテロ、戦争行為など。特に『無登録魔法使いに何かされたら?』という懸念は常にある」


「そもそも、何で無登録魔法使いが存在するんですか?魔法使いや、魔法の管理とかは厳格なように思うのですが?」

 成行は雷鳴に問う。

「厳格だからこそ、それを嫌う奴がいるんだ。そういう輩が自身の能力を偽装申告したり、無申告したりすることがあるんだ。それにありがた迷惑な正義感で、魔法を世のため、人のために使おうとして能力の申請をしない輩もいる。これも面倒なケースだ。魔法使いはユッキーが思うほど自由じゃないんだ。それはいずれ、わかるだろう」

 うんざりした様子で話す雷鳴。その様子に魔法使い業界の後ろめたいものを感じる成行。


「じゃあ、無登録魔法使いが犯人?」

 成行は雷鳴と見事を見る。

「いや、それはまだ断定できない。証拠がない。あるのはだけだ。これも私が調べる。その代わり、ユッキーと見事は学校の森林ゾーンを調べてほしい。魔法使いの痕跡こんせきを探すんだ」

「魔法使いの痕跡こんせき?そんなものがあるんですか?」

「あるさ。なっ、見事」

 雷鳴は見事に目を向ける。

「うん。ママが言っているのは『魔法まほうこん』のことだよ」

「それはどんなもの?」と、見事に尋ねた成行。

 

 新しい魔法使い用語が出てきた。成行は見事の解説に耳を傾ける。

「単純よ。魔法の痕跡こんせきだから、『魔法まほうこん』。魔法を発動すると、僅かながらに魔力が残るの。指紋みたいなものかしら?一般人にはわからず、魔法使いにしかわからないものだけど」

「指紋?じゃあ、個々に魔力、つまり魔法まほうこんは異なっている?」

「そう。だから、魔法まほうこんから、個人の特定や、どんな魔法を使ったか調べられるの」

「へえ~。凄い。なんか刑事ドラマみたい」

 思わず感嘆の声をあげる成行。


「補足すると、そこから個人や魔法を探知できるから、それを出さないようにするテクニックもある。取り敢えず二人で魔法痕を探してくれ。見事の空間魔法を応用すれば探知可能だ。だろ?」

 雷鳴は見事を見る。

「うん。やってみる価値はあるかな?相手が魔法まほうこんを消していたらお手上げだけど」

 母の提案に答える見事。


「じゃあ、明日の放課後に探してみよう」

 成行は見事に言う。

「うん。やってみよう」

 頷く見事。彼女の顔には少しだけ明るさが戻っていた。しかし、それはどこか無理をして明るく振舞っているようにも見えた。


「そうだ!見事」

 パッと見事の方を見る雷鳴。

「何?ママ」

 すると、雷鳴は突然見事を抱きしめた。

「なっ、何!ママ!どうしたの?」

「ママは反省しているんだ。さっきは急に怒ってしまって、見事に悲しい思いをさせたのではないかと心配していたのだ!」

 見事に頬ずりする雷鳴。母からの過剰なスキンシップに動揺する見事。

 そして、それを目の前で見ていて困惑する成行。


「もう、いいから!私は大丈夫だから!成行君も何か困った顔してるし」

 母親を突き放そうとする見事。だが、そう簡単には話さない雷鳴。

「んっ?ユッキーも私にスリスリして欲しいのか?」

 頬ずりを一旦停止する雷鳴。

「僕は結構です」

 成行は笑顔でキッパリ断った。

 明日すべきことが決まったところで、今夜の評定はお開きとなった。


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