第5章 証拠を探す
その①「疑問点」
成行から聞いた話を
「今、やるべきことをハッキリさせよう。まず一つ目は、ユッキーを誘拐したのは誰か突きとめること。二つ目は、どうやって誘拐犯がユッキーの過去や九つの騎士の書のことを知ったのかということ。三つ目は、ユッキーについて。キミが本当に魔法使いになってしまっているのかという点。この三つに的を絞ろう」
雷鳴が述べたことは、いずれも今ハッキリさせておかないとならない事ばかり。しかも、どれも難題ばかりだ。
「難しいですよね」
渋い表情になる成行。
「確かに。だが、放置できないぞ」
雷鳴は毅然とした態度で言う。
「なら、どれから取り掛かります?三つの難題のどれから?」
「考えるまでもなく誘拐犯の正体からだ。それがわかれば、連中がどうやって九つの騎士の書の存在に気づいたか、それに話が繋がる。この二つに関しては、ワンセットで考えてもいいかもしれない」
「確かに。それはごもっとも」と、成行は頷く。
「でも、それは一番難しいんじゃあ―」
「ユッキー、過去において、こんな風に誘拐されたことはないだろう?『九つの騎士の書はどこだ?』って」
「あるワケないですよ。
そんなことが度々あっては堪らないと思う成行。
「ということは、キミの誘拐には何かきっかけがあったはずだ」
「きっかけですか?」
「そう。思い当たるだろう?」
そんなに難しく考えなくても、成行の答えはすぐに出た。
「僕が皆さんに出会ったから?見事さん、雷鳴さん、アリサさん。魔法使いに出会ったから・・・?」
成行は雷鳴と見事を見つめる。
「そう。私たちに出会ったからだ。キミが本の魔法使いに出会ったのが10年前。しかし、今回の誘拐事件に至るまで、キミは一切そんな目には遭っていない。見事、アリサ、それに私に出会うまでは・・・」
雷鳴は厳しい表情で言う。
「私たちは誘拐事件に関係ない!」
すると、大きな声でキッパリと言い切った見事。
この流れでいけば、雷鳴、見事、アリサが怪しいことになる。それを指摘される前に見事はハッキリと誘拐事件への関与を否定した。
「私たちが疑われるのは仕方ない。だが、私たちが九つの騎士の書を探していたとして、誘拐なんてやり方をすると思うか?あまりにも回りくどい」
雷鳴は釈明するわけでもなく、淡々と言った。
しかし、雷鳴の言う通りだと思った成行。仮に、自分が九つの騎士の書を探しているならば、誘拐し、尋問しようとは考えない。それならば、人の記憶や考えを読み取る魔法を使って調べようと考える。それが楽で手っ取り早い。
もっとも雷鳴たちの言う『条件魔法』が自分にかかっているのなら、
「さて、私たち三人ではないとして、では誰が誘拐した?そうなるよな?」
雷鳴は成行を見る。
「ええ」
「そこで私が考えるのは、何者かに盗み聞ぎされたのではないかと思うのだ」
雷鳴は自分の推理を述べる。
「盗み聞ぎ?」
「私は誘拐犯が見事を監視していたのではないかと思っている。なにせ、事の発端はユッキーが見事と出会ったことから始まっているからな」
そう指摘されて、成行は考え込む。その仮説が正しいとして、どのタイミングか。自らの記憶を呼び覚ます。見事と出会い、この家へ来て、見事と二人で多摩川河川敷へ行った。この家で、三人と話して以降は、会話には最大限注意してきた。人のいる場所では意識的に魔法の話題を避けた。
「う~ん」しばし考えて、成行は自身の見解を口にする。
「森の中かな?」
「えっ?森って、学校の森林ゾーン?」見事が驚いた様子で言う。
「あのとき、成行君にゴマシオとの会話を見られたときも、放課後に成行君を呼び出したときも、誰もいなかったわ。それは自信を持って言える」
見事は真剣というより必死な表情で言う。
「ゴマシオって、あのハチワレ猫のこと?」
確かに、あのハチワレ猫は白と黒の模様だった。赤飯や弁当のご飯にふりかけるごま塩に似ている。だから、『ゴマシオ』なのか。
「あの猫は怪しくないの?」
「いや、それはない。ゴマシオは味方だ」
成行の疑問に対して雷鳴が断言した。
「私もゴマシオは関係ないと思う。ママの言う通りあの猫は味方だよ。そこは安心して」
「二人がそう言うなら、心配ないという認識でいいですね?」と、成行。
「そう思ってくれ」と、自信を持って頷いた雷鳴。
「そうすると、どうなるんだ?また、推理は振り出しか・・・」
頭の後ろで手を組む成行。
「まあ、待て。私も学校の森林ゾーンが怪しいと思う」
雷鳴は言った。すると、見事が透かさず言う。
「ママは私のことを疑ってるの・・・?」
見事の不快感が表情に滲み出る。
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