その③「魔女からの提案」


「何ですか?」

 改まって何の話だろうかと思った成行。

「ユッキーのご両親は、来週の月曜日まで帰ってこないのだな?」

「ええ。記念二連チャンで取材ですので」

「じゃあ、この家から学校へ通うのはどうだろう?」

「えっ?雷鳴さんの家からですか?」

 成行にとって、これは想定外の提案だった。


「ユッキー。夕べ、キミが話してくれたことをかんがみれば、やはりキミは狙われていると考えていい。金曜の夜、キミのご両親が不在だったのは、不幸中の幸いだった」

 雷鳴の言葉に寒気さむけがする成行。言われてみれば、その通り。家族を危険な事態に巻き込んだかもしれない。

「僕は命を狙われているんですか?」

「それも含めて考えねばなるまい」

 雷鳴は険しい表情で、最悪の事態を否定しなかった。

 自分が置かれている危機的状況に言葉が出なくなる成行。


「不安な気持ちはわかる。だからこそ、この提案をした。まずは今日から1週間、様子を見よう。キミを狙う連中の動向を探る必要がある。その間、ここから学校へ通う。この家にいれば私も、見事もいる。学校では当然ながら見事がキミを守ればいい」

「昨夜も少し話しましたが、二人に危険はないですか?」

 成行は自身の懸念を再度、述べる。

「それは心配しなくていい」

 即答した雷鳴。そして、成行にこう問いかける。

「それに他にどんな手がある?キミ一人で自分自身の身を守れるか?」

 雷鳴に返す言葉のない成行。それを言われてしまうと、その通りなのだ。今の成行には対抗手段がない。だが、心の奥底では自分自身でどうにかしたいという思いもあった。


「わかりました。よろしくお願いします」

 成行は決断した。

「そう言ってもらってこちらも助かる。ユッキーを誘拐した連中が魔法を使えると仮定した場合、普通の警察では対処できない。それに御上おかみのご厄介にはなりたくないんだ」

「それはどういった意味で?」

「いや。まあ、魔法使いのことは、魔法使いで解決したいということさ・・・」

 そう答える雷鳴。歯切れの悪い答えが、少し気にはなった成行。


「さあ、そうと決まれば、これからユッキーの家へ行こう。キミの着替えや私物など必要な物を取りに」

「わかりました。でも、ワッフルは食べてもいいですか?せっかくなので」

 成行は、目の前に用意されたワッフルを一つ手にする。昨夜は空腹を感じなかったが、話している間に何か食べたいという欲求に駆られた。


「遠慮せず食べてくれ。私はその間に準決勝の車券を買う」

 雷鳴はタブレットを手にする。テレビ中継では、競輪解説者が一つ目の準決勝戦の第10レースを、展開予想ボードで説明している。


 ワッフルを口にしながら、成行もそれを眺め見た。平静を装いつつも、心の中には不安が渦巻く。確かに金曜の夜は、自分だけしかいなくて本当によかった。両親がいれば、二人にも害が及んだかもしれない。

 メイプル味のワッフルも、あまり甘味を感じない。口の中から水分が奪われるので、ココアを流し込み、頬張ったワッフルを柔らかくする。

「ユッキー、慌てなくてもいい。ゆっくり食べろ」

 不意に雷鳴が言った。


「困っているとき、不安なときは、そのことを素直に話せばいい。人は言うほど強い生き物じゃない。まあ、魔法使いもだ」

「雷鳴さんは凄いんですね。何でもお見通しというわけですか?」

「う~ん。それとはまた違うかな?ただ、沢山の人との出会いがあった。良くも悪くもな。だから、何となく人の考えていることがわかる気がする。そんなときがある。魔法を使ったワケじゃないからな。それは先に言っておく」

「そうなんですね・・・」

 冷めつつあるココアを口へ運ぶ成行。

 

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