その④「魔法とは何ぞや?」

「ユッキー。魔法は、いつ何時なんどきも万能ではない。例え魔法使いといえど、様々な魔法を使えるワケじゃない。だろ?例えば、誘拐犯に中に人の心を読める魔法が使える奴がいれば、ユッキーは最初から誘拐されなかったはずだ」

「確かに。でも、そういう魔法は勉強できないんですか?」

 それを聞いた雷鳴は溜息を吐きながら言う。

「ユッキーには魔法使い業界のレクチャーが必要そうだな。でも、それは追々でもいいだろう」


 雷鳴の溜息を聞いた成行は少々焦る。何か気に障ることでも言ったのかと案じたのだ。

「気を悪くしないでください。その、何て言うか、『魔法』って何でもできそうで、便利なものだって考えていたもので・・・」

「便利か?やはり、そういうイメージがあるんだな。これはメディアの弊害だな」

「あれ?何でメディア批判に?」

「メディア批判だなんて、そんな大層たいそうなものじゃない。ただ、映画とか、ゲームとか、アニメの影響力というのはデカいんだなって改めて思うよ」

 雷鳴はタブレットをテーブルに置く。


「ユッキー、質問だ。魔法とは何ぞや?」

「えっ?何ですか、急に?」

「いいから。『魔法』に対するイメージだ。魔法と聞いて何を想像する?今、キミが述べたように、何でもできるというイメージか?」

「ええ、まあ・・・」

 魔法と言えば、もはやゲームやアニメではお馴染みである。そういう視点では、成行にとっても、身近な存在と言える。


「ユッキー。普通の人間にとって、魔法は魔法かもしれない。だが、魔法使いにとってはそうではない。魔法使いにとって、『魔法とはテクノロジー』だ」

「テクノロジーですか?」

 思わぬ答えに怪訝そうな顔をする成行。


「テクノロジーって。う~ん。よくわからん」

 雷鳴の言いたいことをすぐに理解できなかった成行。

「それはしょうがない。普通の人間なら、そう思うのも無理はない。だが、魔法使い業界を知れば、それがどういう意味かわかる」

「なるほど・・・」と言いつつ、何もわかっていない成行。


「何もわかってなさそうだな・・・」

「いやあ、そんなことないですよ?魔法って奥が深いんですね」

 愛想笑いをして、しみじみと言う成行。

「いや、絶対わかってないよな?」と、成行を疑う雷鳴。


「テクノロジーって、それじゃあ『魔法』じゃなくて、『科学』のお話では?」

「科学だって魔法みたいなものだろう?」

「いや、え~と。そうなんですか?」

 雷鳴が言いたいことを理解できない成行。科学の話なのか、魔法の話なのか、よく解らなくなってきた。


「私の言葉足らずだった。例えば、今、私たちがこうして暮らしている世界は不思議だとは思わないか?」

 雷鳴は改めて成行に問いかける。

「不思議?何が?競輪ファン魔法使いは、後にも先にもいない気がしますが」

「私が競輪ファンなのは関係ないだろ!」

 語気を強める雷鳴。しかし、すぐに咳払いし、話を戻す。


「それはいいとして、何が不思議かといえば、現代人の生活全てだ」

「それがどう不思議なんです?」

「いや、考えたことはないのか?どうしてレンジでチンすれば、カチカチの冷凍食品が熱々の博多ラーメンに早変わりするのか?とか。どういう仕組みでタブレットから発したメッセージやツイートが世界中の人に一瞬にして届くのか?とか」


「う~ん。それと魔法がどう関係するんです?」

 今の話が魔法といまいち理解できない成行。

「じゃあ、これならどうだ?今の生活様式を源頼朝や織田信長に見せたら、連中どう思う?凄いなんてものじゃないだろう?未来の日本じゃなくて、それこそに来た気分になるんじゃないか?現代人がスマホでやり取りするのが、まるで魔法を使っているように見えるんじゃないか?」

「ああ、なるほど・・・」

 二回目の『なるほど』を言う成行。今度は雷鳴の言いたいことが伝わってきた気がした。


「今の『なるほど』は、どの程度信用していい?」

 雷鳴が向けてくる疑念の目に、成行は答える。

「まあまあ信用してください」

 少しだけ自信がある成行。直感的に思いついたことを話す。


「つまり、僕らが当たり前と思っている科学や文明社会も、それを知らない人からすれば、未知の技術や文明に見える。それは、まるでのようにみえる」

「正解!」

 クイズ番組の司会者のようなテンションで叫んだ雷鳴。

「キミたち一般人は、魔法使いや魔法の存在を知らずに生きている。私たち魔法使いにとって魔法は当たり前。だが、魔法が当たり前じゃない一般人には、魔法が魔法に見えるのさ」

「なるほど・・・」

 三回目の『なるほど』をしみじみと口にする成行。


「それは考えたことがなかった。魔法は奥が深い」

 頷きながらそう言う成行。

「本当にそう思ってる?」と、問いかけてくる雷鳴。

「今度はそう思ってます」

「やっぱり、さっきはそう思ってなかったのか?」

「あれ?僕、何か言いました?」

 素知らぬ顔をする成行。


「こやつめ・・・!」

 雷鳴のムッとした表情を見て成行は慌てる。

「すいません。怒らないでください。僕は、雷鳴さんや見事さんにちゃんと感謝しています。風呂を借りて、一晩泊めてもらって、美味しいココアとワッフルをごちそうになって。本当、スーパー車券師魔法使い雷鳴様様って感じです」

 オーバーに感謝の意を表する成行。しかし、それで機嫌が直った様子の雷鳴。彼女は強張った表情を解いた。

「魔法のことを話せば、いくら時間があっても足りないな。食べ終わったら、着替えてくれ。ユッキーの服はもう洗濯して乾いているからな。浴衣から着替えるといい」

「重ね重ね感謝です」と、頭を下げた成行。


「では私の車でキミの家へ向かう。着替えとか荷物を積んで、ここへまた戻ってくる。夕飯は三人で、この家で。OKか?」

「三人?僕と見事さん、雷鳴さん。あれ?アリサさんは?」

「今夜は仕事だ。アイツだってフラフラしてるワケじゃない。ああでも、ちゃんと働いてる。魔法使いを舐めんなよ」

「いや、別に舐めてませんって」

 いや、あんな美人なら舐めてみたいか。不埒な考えが成行の脳裏をよぎる。


「今、アリサのことを舐めたいと思ったろ?」

「いや、やっぱり魔法を使ってるでしょう?何でそんなことがわかるの?」

「長生きしてれば、男がスケベな生き物だとよくわかるからな。思考パターンが読めるんだ。魔法使いとして、車券師としての勘だな」

 雷鳴は得意げに話した。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る