完全版07 龍の卵 ー時代遅れの風紀総番長「巴御前」、曲者の新入生に翻弄されるー
「生徒会なら、下っ端でもある程度権限あるから色々動きやすい、授業中であってもな。何より、常にあんたと一緒に居て不思議はねぇ。強制的に執行部に入部ってのは気にいらねぇが、あの先輩の判断は合理的だ。そいつは認める」
生徒会役員室を出たところで、
ふんす。荒い鼻息を一つついて、寿三郎が振り向く。
「女の下につくってのも気にいらねぇが、そもそも俺たちは一年、あんたは上級生だ。それに、肝が据わってるのもさっきわかった。気にいらねえが、あの先輩の判断はいちいち合理的だ」
「つまり、よろしくお願いしますって言ってんすよ」
「おい、勝手に捏造すんじゃねぇ」
「お?違ったか?そりゃどーも」
へらへらと、実に軽く信仁は寿三郎をいなす。
「……何よあんた達、ずいぶん仲いいじゃない?」
初日のあれからすれば、結構な事なんだろうけれど、なんか、ちょっとだけ、気にいらない。なんか、心配してたのが無駄になった気分。
「そりゃあもう。何しろ同じベッドで寝る仲ですから」
「止めろその言い方」
あたしも、突っ込みようがない。要は、基本的に寮は二人部屋で二段ベッドって事なんだけど。
「……俺を女に間違えたのは気にいらねぇが、コイツはコイツで色々役に立つ。その能力は買ってる、それだけだ」
話の流れを変えるためか、寿三郎が言った。その一言で、あたしは理解した。ああ、
「俺は別に、最初から仲良くしたいなーって思ってましたからね、俺、平和主義者だから」
信仁も、へらっと言う。どの口が言うか。さっきの立ち回りを思い出して、あたしは確信した。コイツの方が曲者だ、コイツの言う事は話半分で聞いておかないと、馬鹿を見る。
「……まあいいわ。とにかく、もう五限目始まってるんだから、さっさと教室戻りましょ。放課後、ここで落ち合う、いい?」
「ああ」
「合点承知。そんじゃ、放課後にまた」
無愛想でぶっきらぼうな寿三郎に、調子のいい信仁。この変な凸凹コンビが小走りに教室に向かうのを見送りつつ、あたしは、とりあえず小さな問題が一つ解決した事に安心してた。
その安心が甘かった事を知るのは、翌日の昼休みの事だった。
「っかしーなぁ……」
昼休み、例によって屋上に来たあたしは、素振りを始める前に、昨日回収し損なったコインを探していた。
別に、高価なものってわけじゃない、単なるゲーセンのメダルなんだから。ただ、両断されたコインを誰かに見られて、変な勘ぐりされる事態は避けたい、そういう事だ。
そもそも、単なるコイントスなら、あたしはかなり正確に狙ったところに落とせる。それだと練習にならないから、斬る時はある程度ランダムに落ちるように加減しているけど。それと、斬った時に弾き飛ばしたって事も無いはず。念法、って言うらしいけど、それが出来るようになるまでには、それなりに苦労したし時間もかかった。けど今なら、全くコインの軌道を変えずに斬る事が出来る、それくらいの腕にはなった。
だから、昨日のコインも、落としたところはわかってるから、そのあたりにあるはずなんだけど……
「お、やっぱ開いてた」
あたしが捜し物を見つけられずにイライラしていた時。突然、聞き覚えのある声と共に階段室の扉が開いた。
昨日ほどではないけど、ドキッとして振り向いたあたしと、開いた扉の隙間から顔を出した
「……お邪魔しますぜ」
ニヤリとしながら、そう言って信仁はこっちに来る。
「また来たのかい?何しに来るんだい、こんな所に」
気を取り直して、あたしは腰に手を当てて聞く。あたしみたいに人目を避ける用があるとも思えないし、本当に何しに来るんだ?
「そりゃ勿論、大好きな先輩の顔を見にですよ」
いけしゃあしゃあと、歯の浮く事をコイツは言ってのける。だから信用出来ないんだ、コイツの言う事は。
「それと、ちょいと回収するものがありましてね」
あたしに突っ込む隙を与えずに言葉を繋いだ信仁に、あたしは聞き返す。
「回収?何を?」
「これっすよ」
室外機の上に登りながら返事した信仁は、室外機カバーに両面テープで固定されていたWebカメラを引っ剥がした。
「何だいそりゃ……あ!」
あたしは、ちょっと考えて、すぐに気付いた。こいつが昨日ここに居たのは、この監視カメラを設置するためだ。何の為にって、そりゃあ……
「……あんた、さてはあいつらが来る事予想してたね?」
「俺だけじゃねえっすけどね。寿三郎と相談した結果っすよ」
複数台あるカメラとケーブル、アンテナなんかを回収しつつ、信仁が答える。
「言っちゃえば、土曜日はこれを買いにアキバに行ってきたんでさ」
「あきれた……」
つまり、昨日の行動は、全てこいつらのシナリオ通りだったって事か。あの時「こんなもんか?」って言ってたのは、そういう事だったのか。
こいつら、とんでもねえ凸凹コンビだ。あたしは、ちょっと背筋が寒くなった。あたしが言うのも何だけど、普通の高校生が、そこまでするか?
「そうそう、あとこれ」
回収した機材をナップザックに入れて背負い、室外機から飛び降りてきた信仁が、ポケットから何かを取り出して、あたしに差し出す。
反射的に受け取ったあたしは、今度は背筋じゃなく肝を冷やした。
それは、例のコインだった。真っ二つになった、あたしが探していた、ゲーセンのメダルだ。
「昨日、放課後に一旦ここ来たんすけどね、暗かったんでまあ明日でいいかって。ただ、足下に光るものがあって。位置からして、昨日
邪気のない笑顔で、信仁はあたしに言う。
あたしは、どう答えたものか、わからなかった。多分、その時のあたしは相当間抜けな顔してたと思う。そのあたしの反応をまるでスルーして、信仁は、
「凄いもんっすね。いや、ホントにいいもん見せて貰いました」
「あんた、これ……」
あたしは、そういうのが精いっぱいだった。けど、信仁はどうやらあたしの言いたい事が分かったようだった。
「勿論、誰にも見せてないし言ってません。これは、俺と姐さんだけの秘密って事で」
「……そうかい、なら、いいんだけど……」
見られちまっているから、今更コイツにこの事をどうこうというのは無理な相談だ。黙っていてくれるというなら、今はそれを信用するしかない。そう思って、少しだけ落ち着きを取り戻したあたしは、ある事に気付いた。
「……ちょっと待って、その、
基本、あたしは男子からは名字で
そこへ持って来てだ、その、姐さんって、何?
「あたしゃ、極道の妻かい?」
そりゃ、生徒会執行部における立ち位置、似てるっちゃ似てるかもだけれども。
「いや、とりあえず俺は生徒会で姐さんの下になったわけだし、俺と姐さんの仲だから」
どんな仲だよ。あたしは、秒で思う。
「先輩呼びってのもよそよそしいなと。とは言え巴さんとか、ちょっと馴れ馴れしすぎるなと。で、親密さと尊敬の念を含めて、俺的には姐さんってのがピッタリだなと」
「ピッタリじゃねーよ!
「えー?寿三郎も賛成してくれたんすけど……」
「あんたら、そろいもそろって……」
「そんなわけで、改めてよろしくお願いしやす、姐さん」
「だから!」
「そうだ、一つ聞きたい事があるんすけど」
あたしの抗議なんか馬耳東風で、信仁が強引に話題を変えた。
もう少し、あたしはその呼び名に抗議するつもりだったんだけど、次の信仁の言葉を聞いて、今度こそ本気で、肝が冷えた。
「昨日、木刀、どこに仕舞ったんすか?」
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