完全版06 龍の卵 ー時代遅れの風紀総番長「巴御前」、曲者の新入生に翻弄されるー
先頭を歩く
理由は、なんとなく分かってる。あたしは、動揺したんだ。護ってもらう事に、慣れてないから。だからつい、あたしより弱いくせにって、かっとなっちゃって、手が出ちゃったんだ。
最近は滅多にしなくなったけど、小さい頃はそんな事、よくあった。妹たちが危ない事するたんびに、あたしも辛抱出来なくて、つい手が出るって事が。あたしはお姉ちゃんなんだから、あんた達を護らなきゃなんだから、だから言う事聞きなさいって。きっと、それと同じ。
あたしには、両親がいない。五年前に、二人とも死んだ。それからは婆ちゃんが保護者だけど、婆ちゃんも仕事があるから四六時中一緒ってわけにもいかない。その為と、この髪の色の事もあって、中学の頃はそれなりに色々言われたり、されたりはしてきた。
だから。そんな時、あたしはいつも、むしろ望んで前に出た。妹達を護る為、矢面に立った。負けたり、泣き寝入りなんて、絶対に受け入れられなかったから。
だから。自慢じゃないけど、護る事は慣れてる。実を言えば、服装も立ち居振る舞いも、わざと強面を装っている部分はある。
だから。身内以外の誰か、それも下級生の男子、ましてや
だから。あたしは動揺したんだ、きっと。
だって、あたしは、
まあ、人狼と言っても、あたしはどうやら半分だけらしいんだけど。そのせいか、妹達と違って、あたしは人の姿から変わる事が出来ない。詳しい事は、あたしも知らない。詳しい事聞く前に、両親は死んじゃったから。
それでも、あたしの
そんなだから、年下の男子があたしをかばう、なんて事は今まで無かったし、考えてもみなかった。そもそも、こんな強面のあたしに気安く声をかけるのは、良くも悪くもそういうのに全く頓着のない
今までは、そうだったんだ。
男子達の後ろを歩きながら、あたしはそんな事をグダグダと考えていた。
「じゃあ、一旦整理しよう。入学式の、四日前?」
生徒会役員室で、ざっと聞いた内容の要点をホワイトボードに書き出しながら、
「四月二日だから、四日前っすね」
「四日前に、渋谷で、寿三郎君が、女子に間違われて、スカウトされかけた、と。その相手が、さっきの連中?」
フンと鼻を鳴らして、今度は寿三郎が答える。
「間違いねぇ、です」
敬語が苦手そうな寿三郎を、一瞥しただけで別に窘めるでもなく甲子園は続けた。
「そこに通りかかった信仁君が、反社関係者が女子を勧誘していると勘違いして
「その通りっす」
甲子園は、ペンを停めて、振り向く。
「……止めただけで、探しに来るほど恨みを買うものか?」
「まあ、肉体言語で分かっていただきましたので」
含みを持たせて言った信仁に、甲子園が眉を寄せつつ、返す。
「……まあいいか。警察沙汰にはなってない?」
「あいつらも、それは避けたいだろう、でしょうし」
「叩きゃあホコリが出る身だろうから、藪蛇は避けたいでしょうからね。ましてやこんなガキにやり込められたとなっちゃあ……」
寿三郎と信仁が、交互に答える。
「……それで、沽券にかかわるってんで、そのガキの居場所を探して、探し当てた、そんなところかしら?」
壁にもたれたあたしが、被せる。
「よくも探し当てたもんですよ、なあ?」
「ああ、バカにしたもんじゃねぇな」
信仁が肩をすくめ、寿三郎が相槌を打つ。
「……
甲子園が、あたしに振る。
「さて……言うとおり、警察沙汰は避けたいだろうから、もう直接学校には来ないと思う。けど……」
あたしは、二人を見ながら、
「……どっかで見張ってて、人気の無いところで意趣返し、なんてのはあり得るね」
「わかった。教職員側には、僕から一報入れておく。寿三郎君は被害者だし、信仁君も善意でやった事だ、処分どうこうと言う話にはしたくないと思う。ただ、校内ならともかく、登下校その他で一人になるのは危険だな。なるべく誰かと一緒に登下校した方がいい……」
そう言って、意味ありげに甲子園はあたしに目を向ける。
ああ、そういう事ね。あたしは、その視線の意味を即座に理解した。
「……清滝君、済まないが、しばらくは彼らと一緒に登下校してもらえないか?なるべく早急に具体策は検討するが、それまでは……」
「了解。それはいいんだけど、あんた達、時間は合わせられるの?」
部活がある場合、下校時間は、場合によって朝練でもあれば登校時間も、割とまちまちになる。
「俺は科学部と射撃部の兼部だから、まあ毎日六時七時っすかね?」
「俺は科学部だけだ、時間はまあ、どうにでもなる」
うちの学校は、ほとんどの生徒が文化系と運動系を兼部している。あたしの場合は剣道部だけだが、ここに生徒会が入ると時間が読みづらくなる。
「なら、僕にいい考えがある」
明るい顔で、甲子園が、言った。
「君たち、生徒会執行部に入部したまえ」
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