#8 オルガン、テーブル、転校生
秘密結社のアジトと聞けば薄暗い小部屋を思い浮かべるかもしれないが、そこは荘厳な音楽が流れるガラス張りのアトリウムであった。
そんなアトリウムに置かれた机に二人の人物が向かい合っていた。
「中途半端な時期に現れる転校生というものは、不思議な存在であると聞く」
「なんかどこかで聞いたような話だな」
「ああ、そこで我が結社としても不思議な転校生の管理を試みようと思う」
「好きにしろ。俺はあんたの思いつきにどこまでもついていく。それが仕事だ。
しかし、管理すると言ってもだな。どうするんだ?」
「こうする」
そう言って出したのは一枚の紙だった。紙にはいくつもの名前が書かれており、名前の横には年齢や性別などのプロフィールが書かれていた。
「これはなんだ?」
「中途半端な時期に転校をした学生のリストだ。まだ全てではないが調査を続けさせている」
「なるほど、こうやって謎の転校生の同行を監視するんだな。たまにはまともなことをするじゃないか」
秘密結社の奇天烈な活動に慣れ切った身は、中途半端な時期に転校しているというだけで個人情報を収集するという異常さには気づかなかった。
「それではただのストーカーではないか」
「今更言い逃れはできないと思うぞ」
「いや、ストーカーは密かに調べるからストーカーなんだ。我々は堂々と調査をしていることを本人に伝えて調査への協力を申し込んだ」
「何してんだ?」
「謎の転校生なのだから、その謎を解き明かさねばいけないだろ。というわけで何人かとは面談を行った」
「よく面談してくれたな。こんな自称秘密結社の調査に」
「そりゃ、巡回スクールカウンセラーって名乗ったからな」
「ストーカーより悪質だわ」
「するとだな。やはり転校というのはそれなりの悩みを伴うものらしい。この少年は新しい友達ができるかが不安なのだそうだ。こちらの少女は持病が悪化して病院の近くに引っ越す必要ができたらしく、転校しても学校にはあまり通えないと悩んでいた」
「まあ。転校っていうのは生活を丸ごと入れ替えるようなものだからな。謎の転校生って言っても普通の子供ってことだ。納得いったか?」
「いや。謎は解けたが、このように悩みを抱えた子供たちを見捨てることは秘密結社のあり方にそぐわない」
「なんだよ、秘密結社のあり方って」
「したがって、我々はこれからこのリストの載っている子供たちが新しい生活に1日でも早く溶け込めるように支援を行う。これが今後の秘密結社の使命だ!」
三題噺 トレーニング 池堂 @smek1
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