#4 お地蔵様、100万年後、わかめ


「お地蔵様、行って参ります。母なる海をワカメから奪還するために」

 少年を先頭にした一段は村の中心に置かれた地蔵に手を合わせていました。

 かつて、お地蔵様に祈る行為は自らの精神を落ち着かせる心理的な側面を強く持った行為でしたが、少年たちは具体的な目的をもって祈りを捧げていました。


 お地蔵様に適切な航路を授けていただく為です。


 お地蔵様の運命を変えたのは、超越者がこの惑星に降り立った時でした。超越者は当時人類を苦しめていた藻類との戦い、具体的にはわかめを頂点とする新たな生態系との戦いに協力するために降り立ちました。


 人類は地球温暖化とエネルギー問題の一挙解決を狙ったワカメの遺伝子操作によって知能を持ったワカメを生み出してしまっていたのです。


 しかし、超越者にとって酸素は毒でした。そして運の悪いことに、その頃の地球はわかめによって酸素が多く含まれる大気組成になっていました。


 超越者は地球上に豊富に存在する岩石を主成分とする地蔵に目をつけ、これを自らのインターフェイスとしました。


 しかし、これらは全て昔話。人類の末裔は先祖の過ちも手を差し伸べてくれた超越者の存在も忘れてしまいました。

 残されたのは、人類を脅かすワカメと世界各地に存在する知恵を授けてくれるお地蔵様だけでした。人類はお地蔵様に知恵を授けて貰っていると思っていましたが、その実は超越者がワカメを地球に留め置くための戦力として人類を操っているだけです。


 


そうです。100万年後、地球はワカメとお地蔵様が支配する惑星になっていたのです。


 少年たちはお地蔵様の先兵として今日も戦いに赴きます。

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