11 男爵邸の戦い

 男爵一家が避難したのは宇宙船が飛び立つ前日だった。予定ではもう市民の9割は避難を終えているはずだったが、なぜかまだあちこちの道路が混んでいて、テリーたちの乗っているバスも2時間以上到着が遅れた。

 昼過ぎにやっと自然生物保護センターに到着する、深い山間の谷川のそばの絶景ポイントに作られた古い観光ホテル、それが閉鎖されると聞いて男爵が買い取り、設備を一新させて作ったのが野生生物保護センターである。敷地には川や池などの水辺の生き物ゾーンも整備されているし、ホテルの中は迷子になったりけがをしたりして持ち込まれた動物たちの専門家による医療施設や保護施設が充実している。クマヤアナグマなどの哺乳類から、鷹やフクロウなどの猛禽類、その他爬虫類から両生類までたくさんの動物が、元気になるまで保護されている。人間のための医師も二人いて、先住民などの健康相談や治療にもあたっている。面白いのは、ホテルの建物だけでなく、バンガロー村や、子供遊園地などの周りの施設まで、男爵のアイデアで野生生物用に作り変えたことだ。ムササビやフクロウの仲間が棲めるように屋根を改造して巣箱や木の洞を作ったり、縁の下にはいくつも巣穴を作ったりしてある。また昆虫が棲みやすいように細い笹から太めの竹までいろいろの太さのものを切り、束ねて積んでおいたり、たくさんの岩や石を組み合わせて生物の棲みやすい岩場を作ったり、いろいろの蝶や蛾などの食草を計画的に植えたりしている。すごいのはあちこちに監視カメラがあり、棲みついた動物たちを観察したり、記録したりして、さらにいろいろな生物が増えるように、毎年定期的に施設を改良していることである。

 ここでは絶滅危惧種などのたくさんの生き物に出会え、しかも簡単に映像も手に入るため、世界各国のテレビ局や大学の研究機関などに援助を受け、最近は採算も取れるようになってきていた。

 そこにパーカーの運転する黒いバスや、テリーの乗った地底人のバス軍団がやっと到着だ。もうバスの外にエリカが来ていた。

「ちょっと市長さん、私らの話を聞いてください」

 夫婦とこども二人、それに祖母の5人家族が、迎えに出たエリカを捕まえて離さないようだ。

「私たちはサッカー施設の合宿所だって聞いていたんですけどね…行ってみたら、先住民の部落のすぐ隣じゃないですか…」

 聞いてみると、到着したとき、先住民の人たちが民族の踊りや歌出迎えてくれたのだが、槍を持った戦士の人たちが怖くて、母親や祖母がなじめないとごねているのだそうだ。

「はは、あの人たちも普段はTシャツとかジーパンとかで暮らしてるんですよ。槍なんて普段はもっていません。ご安心ください」

 エリカはやさしく明るく説明した。だが今度は父親がしゃべりだした。

「それでネットで調べたら、ここの施設は立派だし、多少余裕もありそうなんですが、ここに避難しちゃいけませんかね」

 なんとも勝手な人たちだがエリカはどうこたえるのだろう。

「けっこうですよ、ここがよければご自由に。でも、ここは訳あってかなり特殊な人たちが入られるんですよ。それでよければ…」

「そうやって市長さんは私たちを追い払おうとしてるんじゃないですか?」

 母親が少し感情的にまくしたてた。だがその時だった。

「あら市長さん、いらしてくれたんですか、ありがとうございます」

 派手なドレスのホリアとルナサテリア夫人が並んでやってきた。二人とも、ドクロや骨の変わったアクセサリーをしている。

「キャー」

 文句を言っていた母親が一歩後ずさりする。2メートルの執事パーカーが、無表情で大きな荷物を持ち上げて歩いてくる。さらにその後ろには、長い鼻のバーゼルさんも楽しそうについてくる。さらに全身真っ黒で長い手袋、顔には黒いベールの二人組も通り過ぎる。そう、直射日光に弱い不老不死の母子である。ごねていた一家はみんな顔を見合わせる。そしてアルパ博士がみんなの前を歩いていくとき、丁寧に一声かける。

「失礼いたします」

 アルパカがしゃべった?顔色が変わる父親、そしてとどめは次の集団だった。ライトのついたヘルメットをかぶった男の後ろから、数百人の地底人が顔に板で作った遮光器をつけ、不思議な歌を口ずさみながら通り過ぎて行ったのだ。

 ごねていた母親が、家族の手を引きながら自分たちの自動車へと戻り始めた。

「すみません、もとの施設に移動します…すみませんでした」

 それを見ていたエリカとテリーは、顔を見合わせてくすくすと笑った。

 そのころ皇帝の出現した光の柱ができた駐車場には、緑色の宝石のジュエルヘッドのエメルとその部下たちが転送されて来ていた。

「陛下、プロトキメラの反応は、このエッグシティの南部の男爵家の辺りで出ています。一度母船に戻りますか、それとも…」

「ふふふ、私も体を慣らしついでにゆっくり歩いてみようか…。それにあいつらの相手をせねばならぬようだな」

 皇帝がにらむ大通りの先からは、何台かの装甲車が近づいてきていた。中には砲台を持った戦闘車両も含まれているようだった。

 監視カメラの倍率を上げて、あのアンドロイドたちの周辺を映してくれ。あの知的で物腰の和らかなキース少佐があごに手をまわし、ちょっと難しそうな表情でつぶやいた。

「敵はわずか10数体の先頭アンドロイド、宝石のような頭を持った奴と、大柄で甲冑に包まれた奴がいるが…」

 少しおいてから、キース少佐は決断した。

「調査がてら、新開発した対アンドロイドレーザー砲が有効かどうか試してみるかな。手に負えなくなったらすぐに撤退する。我々最前線の防衛隊ができるのはそこまでだ」

 やがて戦闘アンドロイドの中から緑色のエメラルドに似たジュエルヘッドが進み出る。そして正確に地球の言葉でメッセージを送ってきたのだった。

「君たちの車両の中には、戦闘車両が含まれている。それらを撤退してほしい。我々は無駄な戦いを好まない」

 だが、カメラ画面を見ていたキース少佐はこう応対した。

「ここは我々の星であり、我々の街だ。そちらの戦闘アンドロイドを先に撤退させるのが筋であろう」

 するとチーフエメルが何か言おうとしたが、それより早くメギゼイドス皇帝が動いた。

「愚か者め!」

 皇帝の右手から何かエネルギー波のようなものが打ち出された。

 ズドオオン!

 爆発とともに先頭の装甲車がひっくり返っていた。それを合図に、キューブヘッドたちがばらばらと突進してきた。こちらも装甲車を盾にして貫通力の高い特殊なショットガンで応戦だ。

「だめだ、貫通弾も効かない。奴らの体はどんな装甲になっているんだ」

なんと今回、キューブヘッドたちは離れているときは手の甲に取り付けられた光線銃を撃ち、接近戦では手の側面から出るアームカッターで切り付けてくる。

新型の銃も目立った効果はなく、装甲車の兵はだんだん追い詰められていく。

「よし、今だ!」

激戦のさなかキース少佐が新兵器の合図を出した。装甲車に取り付けられた砲台が、キューブヘッドにロックオンし、キューブヘッド1台の頭部に高熱線を放った。当たった瞬間、反応はないが、数秒後にキューブヘッドは急に動かなくなり、倒れていった。

「よし、作戦通りだ。もう1台行くぞ」

あれだけ精巧にできたアンドロイドだ、かなり性能のいい人工知能が載っているはず。だが仮に人工知能だとすれば高熱に弱いのが常識だ。こちらの作戦がズバリ当たったのだ。だが、それを見たのか、あの緑色のジュエルヘッドが装甲車に向かってきた。

「よし、あの大きな宝石野郎をしとめるぞ」

だが、すぐにロックオンし、ジュエルヘッドの頭部に高熱線を放った瞬間、緑色の宝石がまばゆく輝き、高熱線はすべて反射されてしまった。宝石のような頭部にはちゃんと理由があったのだ。そしてあっという間に緑色のジュエルヘッドは高熱砲に近づき、指先から出た光のカッターのようなもので高熱砲を粉砕してしまった。

「新兵器の効果は見届けた。手に負えん。被害が出ないうちに撤退だ」

それを見届けたキース少佐は、すぐに撤退命令を出した。散り散りになり、撤退していく防衛部隊。そのころ皇帝はとっくに戦いに興味を失い、裏通りへと歩き始めていた。だがやっと数千年の眠りから目覚めた皇帝の周りにはエネルギーが揺らめき、そのエネルギーの渦がとんでもないものを呼び寄せていた。なんと皇帝の斜め前の地面に大きな穴が開き、あのクーパー爺さんを飲み込んだ、ワームの怪物が飛びかかってきたのだ。

「グバババババルバルバル!」

体はイモ虫のようだが、東洋の、そう、日本とかインドネシアとかの獅子の頭に似た、人間のような歯やギョロリとした大目玉がすごい形相で襲い掛かってくるのだ。

「ほう。トラップモンスターか」

皇帝は微動だにせず両手でその大きな口を受け止めると、ひねるようにして抑え込み、暴れる怪物の巨大な口に手をかけたままぐいと力を入れた。

「ググググギャアアアア!」

皇帝はその大きな口を引き裂くと投げ捨てた。ワームはぴくぴく動きながら穴とともに消えていった。

「陛下、お怪我はありませんでしたか?」

かけつけた緑色のジュエルヘッドに皇帝は手を振り回しながら答えた。

「このトラップモンスターのおかげで、やっとパワーが半分ほど戻ってきたわい」

そして皇帝とジュエルヘッド部隊は、一度赤い光の母船へと転送されていったのだった。

「なに?!パズマの皇帝が生きていて、しかもこのエッグシティに出現したって?」

ここはエッグシティ西部の廃病院の秘密基地だ。あのサイタイプの宇宙人ゼムダが皇帝のことを聞いてかなり焦りだした。

「皇帝の力はまったく未知数だ。だが弱いはずはない。でも恐れていては勝負にならん」

バンパイアタイプのゾラスがそう言うと、黒ヒョウタイプのジャンヌが走り込んできた。

「みんな急いで、男爵邸の庭に、奴らが転送してきたわ」

「よし、チャールズは間に合わないが、我々のエッグロボットスーツで出撃だ」

三人は病院の地下にある転送ゲートに急いだ。そこには身長3メートルほどの卵型のロボットスーツが待機していた。

「あたしから行くわよ」

黒ヒョウタイプの宇宙人「ジャンヌ」が乗り込んだのは、機動力の高いパンサーナイトだ。右手に金属をも切り裂く高周波ソードを持ち、左手に黒ヒョウのシールド、もしソードを失っても秘密兵器があるらしい。

「もしこちらが戦闘不能になれば、自動的にここに逆転送される設定になっている。命を大切にするんだ」

バンパイアタイプのゾラスが乗り込んだのは、背中の反重力ウイングを使って、短距離なら空も飛べるバイトバットだ。右手にサメのあご、左手がサーベルタイガーの牙になっていて、ボディの真ん中には伸び縮みするドラキュラ・キッスと言うかみついた相手をバラバラに粉砕する強力な武器も付いている。

「とにかく男爵様をお守りする、それだけだ」

大柄のサイタイプの宇宙人ゼムダが乗るのは、スピードは劣るが一番の腕力を誇るグレートナックルだ。長い腕、巨大な手のひらはキューブヘッドを握りつぶし、超合金のスパイクが飛び出すナックルパンチの破壊力ははかりしれない。

そしてリグラルの宇宙人たちは、次々に戦場へと転送されていったのだった。

「…体の調子がもう少し上がるまで、部下たちの戦いの様子でも見ていようかのう」

皇帝はそう言ってどっしりと座り込むと、地上から贈られてくる画面をじっとのぞきこんだ。男爵の屋敷の玄関の前に、三体の卵そっくりのシェルファイターたちが陣取った。エッグロボたちは一つひとつ個性的なデザインをしているが、基本的には、身長3メートルほどの卵型のボディに短く頑丈な足、そして長い腕を持ち、全体に重心の座った重量感のあるデザインだ。パズマの軍勢はイギリスの邸宅のような男爵家の玄関前に広がる広い庭に転送してきた。洞窟の民を乗せるために、たくさんの観光バスが止まっていた辺りである。先陣を切るのがチーフルビー、その後ろにチーフダイアの部隊がいて、チーフラピスのシャドーヘッド部隊はどこに行ったのかその近くには見えない。

チーフルビーは赤い炎のような光が揺らめくファイアソードを取りだすと、10人ほどのキューブヘッドを従えて襲い掛かってくる。ファイアソードは単に大きいだけでなく、炎が噴き出し、炎が二倍近く伸びる。それを振り回すのだ。かなりデンジャラスな相手だ。

「私の出番ね」

 ジャンヌがパンサーナイトの高周波ソードを振り上げて向かっていく。キューブヘッドが光線銃を連射するがエッグロボたちにはやはり銃撃戦は通用せず、腕のアームカッターをシャキーンと伸ばし、襲い掛かる。だが、パンサーナイトの剣さばきは全く隙が無く、銃弾をも通さないキューブヘッドたちが、金属をも切断するという高周波ソードで、次々に切り刻まれていく。さらにバイトバットが反重力ウイングで空に舞い上がり、低空を舞い降りて攻撃、サメのアゴでかみつき、左手のサーベルタイガーの牙でキューブヘッドにとどめを刺す。さらに襲い掛かるキューブヘッドを巨大なドラキュラ・キッスを延ばし、あっという間に粉々にかみ砕く。

「つ、強い」

 怖気づいたのか、立ち止まるキューブヘッドは、たちどころにグレートナックルに一掴みにされ、バキバキと握りつぶされていく。

「ふふ、高周波ソードか、なかなかやるな」

 チーフルビーのファイアソードをパンサーシールドでギリギリかわし、高周波ソードで切り付けるジャンヌ、切れ味抜群の振動する高周波の刃がチーフルビーのアンドロイドボディに少しずつ傷をつけていく。

「だが、これならどうだ!」

 なんと今度は、ファイアソードの先が光り、高温のプラズマ団がパンサーナイトに打ち出された。直撃を食ったら致命傷だ!

「ううあああ!」

 慌ててよけるが、バランスを大きく失うパンサーナイト。すると容赦なく、ファイアソードの鋭い突きがパンサーナイトの右手を襲った。

「う、不覚!」

 わずかなスキを切り込まれ、パンサーナイトの高周波ソードが宙を舞う。そこを狙って二人のキューブヘッドが左右からアームカッターで襲い掛かる。

「受け取れ、ジャンヌ」

 手の長いゼムダのグレートナックルが、飛ばされた高周波ソードをさっと拾ってジャンヌのパンサーナイトに投げる。

「サンキュー」

 電光石火、空中で受け止めると、黒ヒョウのジャンヌは左からの攻撃をパンサーシールドでかわしながら、右から来たキューブヘッドを真っ二つだ。そして反転しながら左の敵も胸を斜めに切り裂いて爆発させる。それを見ていた皇帝メギゼイドスは、つぶやいた。

「チーフエメルよ、奴らは強くなっている。気を抜いてはいけない。すぐにお前のエメラルドバリアでサポートしてやってくれ」

 チーフエメルもすぐに部下たちと一緒に転送装置に走りだす。

 そのころバイトバットはチーフダイアと激闘を繰り広げていた。

「ダイアクローとダイアモーニングスターだ!」

 右手にはダイアの強力なツメ、左手にはダイアモンドと鉄球でできたとげとげの大きなボールがチェーンで振り回される。それが交互に繰り出されるのだ。サメのアゴやサーベルタイガーの牙で跳ね返すが、だんだんと押されていくバイトバット。

「ならば、この攻撃ではどうだ!ソニックストーム!」

 バイトバットは、反重力ウイングで空中にすっと舞い上がり、飛来しながら、超音波カッター攻撃を仕掛けてきた。チーフダイアのクロー攻撃もモーニングスターも届かない。大きく開いたボディの口から、あちこちに超音波が発射されたのだ。

「うぬ、こ、こんなことが?!」

 驚くチーフダイア、なんと超音波でダイアモーニングスターのチェーンが切断され、とげとげのダイアモンドボールが地面に転がる。まさかの使用不能だ。さらにバイトバットは空中を旋回し、もう一度突進してくる。

「仕方ない、1回しかできない必殺攻撃だ、イチかバチかだ」

 チーフダイアは顔を飛来するバイトバットに向けた。

「ブリリアントスパークリングナイフ!」

「な、なんだこの攻撃は?!」

 一瞬閃光が走り、小さな爆発と地響き、バイトバットが、チーフダイアの攻撃を受けて墜落する。ダイアナイフが2本、ボディに突き刺さり、反重力ウイングも片方が折れてしまっている。

 なんとチーフダイアの頭部のダイアモンドが、ものすごく明るい光を発射してきらめく、と同時に、ショルダーキャノンから鋭いダイアのナイフが四方八方に発射され突き刺さるのだ、これはよけきれない。

 バイトバットは飛び立とうと試みるが、反重力ウイングも折れ、飛行不能だ。その時、ピピピピーと言う電子音が鳴り始めた。戦闘不能、もうすぐ逆転送が始まるという合図だ。

「うう、このままでは終わらぬ、これならどうだ」

 ズバン、ズバン、鋭い発射音が辺りに響く。墜落したバイトバットは、チーフダイアに向けて右手と左手をミサイルのように発射した。

「チーフダイア様、危ない!」

 3名のキューブヘッドが飛び出してチーフダイアを守ったが、一人はサメのあごに頭部をかじり取られ、もう一人の胸にサーベルタイガーの牙がずぶりと突き刺さった。

 そのままバイトバットに襲い掛かる三人目のキューブヘッド、だが倒れたままのバイトバットのドラキュラ・キッスが伸びて粉々にされてしまった。チーフダイアが告げた。

「あっぱれじゃ、わが部下たちよ。今私がかたきを取ろう」

 だが戦闘不能にされたバイトバットはそのまま逆転送されて戦場から消えていった。チーフダイアはそれを確認し、残り2機のエッグロボにダイアクローを構え直した。その時すぐ傍らに光が瞬き、緑色の宝石のジュエルヘッドエメルが転送されて現れたではないか。

「私のバリアであなたをサポートします。今度はチームで行きましょう」

「心強いぞ。チーフエメルよ。いざ行かん」

 迎え撃つシェルファイターは1機減って現在2機、目の前のジュエルヘッドはいつの間にか3機に増えている。

 ジャンヌが高周波ソードを構えなおしながら言った。

「チャールズのエッグロボ、オクトクラッシュが出動できないのが痛いわ。チャールズはいつ戻ってくるのかしら」

 するとグレートナックルのゼムダが拳を握った。

「俺のグレートナックルは、スピードは出ないがボディはずば抜けて頑丈だ。とことん粘って奴らを男爵邸には入れない。それだけだ」

「わかった、まずあいつからしとめてやるわ」

 ジャンヌの視線の先、チーフルビーがファイアソードを構えて、パンサーナイトに迫ってきた。グレートナックルには、チーフダイアとチーフエメルの協力コンビが迫ってきた。

 そのころ、野生生物保護センターでも大掛かりな移動作業がほとんど終わり、男爵家のメンバーも、地底の民も、新しい居場所を得て落ち着いたところだった。テリーは若いリーダーマグナスとともにすべての地底の民の部屋を回り、初めての大移動で不安な彼らの心を落ち着かせて歩いた。だがすべての作業が終わったとき、エリカからまた呼び出しがかかる。

「ごめんねテリー。でももう一度運転手を頼みたいの」

「その様子だと、ただならぬことが起きたようだね。いいさ、一緒に行こう」

 エリカのおでこにはまだ絆創膏が貼ってあった。傷が治りきらない状態で、またエリカは出かける気らしい。

「地域の人々の避難が終わり、警察も引き上げた後、誰かが変なデマメールを流してくれたらしいの。エッグシティ以外の人たち宛てにね」

「エッグシティ以外の人たちにだって?」

「今回の地震は、ほとんどエッグシティの中だけで起きている。だから、他の地域の人たちは今起きている地震のことなど知る由もない。だからありもしない地震を理由に賠償金ももらえずに追い出される、支援を頼むって、残った被害者たちの連名で送ったらしいの」

「そ、そんな…」

「そのメールの内容を誰かがSNSにあげたらしくてね、今、廃工場の近くには、実情を知らないたくさんの他市からの支援者がぞくぞくと集まっているらしいの…。もう、現地に警察もいないっていうのに…」

「ばかな、他市から来た人たちまで災害に巻き込まれるぞ」

「お願い、運転手さん。とりあえず、私を廃工場まで運んでください」

「わかった。一緒に行こう」

 テリーは激務で疲れ切ったエリカを乗せて、再び廃工場に自動車をとばしたのだった。

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