第6話.街到着
あれから大体30分程度だろうか。体感的には短かったと感じながら、俺は目の前にそびえる大きな石の壁に圧倒されていた。
大きな門があって、その両脇に1人ずつ門番みたいな鎧を着た人が槍を持って立っていた。本当に微動だにしないし実は人形だったりするんだろうか。
「ふん、スライムの粘液を取り除いた時もそうだけど、反応がいちいちオーバーなのよ」
「す、すいません……」
「別に怒ってないわよっ!!」
フレイさんは声を荒げてツッコミを入れてくれる。
実は少し前にフレイさんにスライムの粘液を取り除いてもらったんだけど、その時に初めて魔法を使っている所を見たので興奮してしまったのだ。この世界では魔法を見ないことがまずあり得ないことだと神様も説明してくれたので、フレイさんの反応も当然と言えるだろう。
けど本当に初めて見たから仕方ない。
ちなみにこれはこっそりとアーサーさんから聞いたことだが、どうやらフレイさんは魔法の扱いに長けていて結構な有名人らしい。燃えるような髪色に似合う炎を扱うそうだ。
『ひひっ、本当に見た目通りだな』
そうか? 炎と言えば青色じゃないか?
『おいおいブラザー、何を言ってるんだ? 普通は赤だろ?』
……そうか? いやまあ神様がそう言ってるくらいだしそうなのか……?
ていうかそれよりも、本当に門番の人は何してるんだ? さっきから一切動かないけど、まさか本当に人形だったりするのか?
『いや、生きてる。よく見てみろ。まばたきもしてるし欠伸だってしてるぞ? あくまでも門番の役目は魔物を街に入れないことだからな。街に入る奴全員検査してたらキリがない』
なるほど……確かに言われてみればそうか。見てる感じだと人の出入りも多いし、そうなるのも頷ける。
まぁでもそこらへんはありがたい。身分証明とか出来るもの持ってないからアーサーさんに迷惑を掛けてしまう可能性もあったわけだし。
『ほら、あいつらはもう先行ってるぞ? 早く街に入ろうぜブラザー』
「おっとと……ありがとう」
いつの間にか取り残されていた俺は少し離れてしまったアーサーとフレイさんに駆け足で追いつき、なんの問題もなく門を潜って街の中へと入ることが出来た。
街の中は特にこれといった特殊な表現をしなくても良いような場所だった。なんというか、俺が想像していた海外の街並みのイメージと一致しているからかもしれない。
流れる人。流れる声。賑やかなそれは、地球での騒がしさとはまた違った感覚を覚える。
「よし、じゃあクロマさん。街に着いたけどこれからどうしようか! 良ければ僕が街の中を案内するよ!!」
「ははは……それはありがたいけど……」
俺のほうを向き、目を輝かせながら俺の返答を待つアーサーさん。
嬉しい……嬉しいのだが……。
俺は恐る恐るフレイさんに視線を向けると、蛇の如く睨みつけているフレイさんが視界に入ってしまった。あまりの形相に俺は蛙の如く身動きが取れなくなってしまい、ついにはフレイさんの背後に般若の顔が見える幻覚さえ見えてしまう。
『ひひっ、あまりの形相にオーラが具現化してるんだ。この世界ならではの現象だからよく見ておけよ?』
見れるわけねぇだろ! 睨まれてるだけで俺殺される気がするんだけど!?
『そう慌てんな。ただの冗談に決まってるだろ? ユーモアは必要だ。それよりも、この街まで生きてこれただけでラッキーなんだ。フレイとやらの機嫌を損ねてまで付いていく必要は無い』
……確かにそれもそうか。このまま付いていけば睨み殺される気がするし……。
それに、アーサーさんに街を紹介してもらわなくても、この街についての詳しい事は、設計した神様が教えてくれるだろうしな?
『そういう事だ』
神様と話を付けた俺はフレイさんに向けてなるべく笑顔を作って頷くと、アーサーさんの提案をやんわりと断ってみる。
「ありがとうございます。でもこれ以上迷惑をかけることは出来ませんので、俺……じゃなくて私はこの辺で……」
「迷惑だなんて……そうかい……分かったよ。また困った事があったら冒険者ギルドにおいで。いつでも協力するから」
アーサーさんは引き留めようと言葉を紡ごうとしたが、俺の表情を見て断念してくれたみたいだ。少し残念そうに肩を落としながらそう言って、何故か上機嫌なフレイさんと共に人混みに紛れて消えていく。
「はぁ……久し振りに人とこんなに話した気がする……」
「おいおい、オレ様はノーカウントか?」
「ノーカウントに決まってるだろ……神様はまた別だ」
何時の間にか光の球体として具現化していた神様は、我慢していた分が爆発したのかと思うほど俺の周囲を飛び回る。正直飛び回るハエみたいで鬱陶しい。
「ていうかそんなに飛び回って大丈夫か? ほら、変な目で見られたり」
「安心しろブラザー。アンタ以外にオレ様の姿は見えないようになってる」
「便利だなホント……」
本当に神様は何でもありだな……俺の思考を読んだりしてくるし。もう何が来てもあまり驚かない自信があるぞ俺。
「それで、こっから俺はどうすればいいんだ? 最低限生活出来るくらいにはならないといけないわけだけど」
この世界に来たばかりの俺じゃ何も分からないので、取り敢えず神様に全部投げてみた。すると意外な事にも真面目に考えてくれているみたいで暫く低く唸っていた。
てっきり『ブラザーが望んできた世界だからブラザーが考えろよ☆ HAHAHA☆』とか言われるかと思ってたが意外と真面目なのかもしれない。
「ブラザーの中でのオレ様はそんなチャラいキャラなのか?」
「チャラい……というか、ちょっと適当なとこがあるというか」
「失礼な! オレ様は適当なんかじゃないぞ! しっかりと考える時は考える奴だからな!」
「考える時は……ねぇ……」
まるで普段は何も考えてないみたいな言い方だな……まぁいいけど。神様にはこの世界に連れてきてくれた恩があるわけだし、俺としてもそっちの方がやりやすい所はある。神様との会話に緊張感を感じないのは、そう言った所からなのかもしれない。
「それで、こっからどうすればいいんだ? 街の中を案内してくれるとか?」
「あぁー……そうだな。何はともあれ冒険者ギルドからだ。案内してやる」
「え、冒険者になっても俺何もできないんじゃなかったっけ?」
神様は冒険者ギルドに行く気まんまんだが、子ども以下のステータスを持つ俺がクリア出来るクエストなんて想像がつかないんだが。例え1番かんたんな犬の散歩なんてものがあったとしても、この世界じゃ逆に俺が犬に散歩されそうだしな。
「でも、ブラザーが持つスキル【模倣】は敵を倒さないと発動出来ない。寄生プレイでもしない限りブラザーは宝の持ち腐れ。少しでも選択を間違えるとブラザーはこの世界での生活が積むんだぞ?」
──積む。
こんな神様の言葉に現実味を感じてしまう今の状態に、そうだよな、とため息を付かずにはいられなかった。
神様は俺の目の前に俊敏な動きで移動してくると、励ますようにポヨポヨと光の球が横に伸び縮みする。
「安心しろ。逆に言えば、能力さえ手に入れたらブラザーはやり方次第で最強になれる。それならまだ可能性のある
神様は声を弾ませながらそう言ってくれた。が、俺としてはあまりその想像が付かないでいる。何故なら、まずそれをする為には協力者が要る。それもただの協力者ではなく信用が出来る協力者──俺のステータス事情を知ってもなお付いてきてくれる人が必要だからだ。
「ひひっ、そんなのは探せば意外と見つかるもんさ。今はとにかくギルドを目指す。悩むのはそれからだ」
そう言って神様は俺の前をフヨフヨと浮遊して先導してくれる。
人通りが多い場所に出たり、逆に裏路地みたいな人通りの全くない場所を通ったりしたりと、様々な場所を歩いた。神様が言うには、これが1番の近道らしい。
それで気付いたことだが、この街はとてつもなく広い。それこそ東京ドーム何個分とかで例えてもいい程に広いだろう。歩けば歩いただけ新しい場所へと繋がるその瞬間は、本当にファンタジーな世界なんだと俺の心を踊らせた。
「付いたぞ」
神様の後をついて約15分程度だろうか。さっきまで人通りが全く無かったのに、少し通りを出ただけで沢山の行き交う人々の姿が映し出された。
「──ここが、ブラザーお待ちかねの冒険者ギルドだ」
神様は話すと同時に動いて、俺の視線を誘導してくる。そして神様が止まったその場所には、堂々と佇む大きな煉瓦造りの建物。ギルドのシンボルなのか剣が盾と交差しているようなマークが入口の上に装飾されている冒険者ギルドが、そこに待ち構えていたのであった。
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