第69話 崩れる顔







「あなた方、泰斗の気持ちを考えたことがあるんですかっ!?」





徒歩で妹尾くんと楓と3人で向かった妹尾くんの一軒家。父親と思わしき人に玄関を開けてもらったら、乃絵瑠ちゃんのトンデモ爆発叫びで始まるのであった。


普段の乃絵瑠ちゃんの控えめでおっとりした感じは無く、今にも彼女の目の前にいる女性に噛みつきそうな感じの後姿が目に飛び込んでくる。


2番目に目に入った男性。妹尾くんを見てどこに行ってたんだ?と話しかける男性は、少なからず動揺しているようだ。


誰かっ!状況!状況説明!こ、これが修羅場というものなのだろうか。い、一応俺も最近修羅場を乗り越えたはずなんだけどな。


目の前の男性。妹尾くんの父親のように、人目を気にして苦笑いを浮かべるしかない。


それだけ、乃絵瑠ちゃんの凄まじいオーラで場が揺れまくっているのだった。


「の、ノエちん。とりあえず落ち着こう?」


「乃絵瑠ちゃん。気持ちはわかるんだが、今は耐えてくれ。外に全部聞こえてしまう」


楓から場の救済の声がかかると、俺もそれに乗っかって発言してみた。すると、どうしようもなく立ち尽くしてる女性と目が合った。うんうん。優しそうな人じゃないか。じゃなくてぇ!えっと・・・・・・


「妹尾くん。ほら、君が止めるべきだ。君の彼女だろう?」


うぎゃああ!今、今のっ!凄い使えないおっさんって感じのセリフ。待ってぇ!こんなのを言いたいんじゃない。もうちょっと大人の威厳を!


ぐにぃ!


って痛ぁ!楓、楓様っ!?脇腹をつねらないで!捻らないで!痛いってば!わかった!わかったからっ!


「の、乃絵瑠ちゃん。君が代わりに怒ったところで、この二人には伝わりきれない。ここは彼氏を立てるべきだ。そのために彼はここにいる」


「隆太おじさん。ごめんなさい。わたし、どうしてもぉ、伝えたくて・・・泰斗のぅ。気持ちを・・・・・わかってるつもりだから、泰斗はずっと良い子だったんだよぉってぇ・・・・ぐすっ」


顔を両手で覆い隠して、乃絵瑠ちゃんの啜り泣いた。


後ろから進み出て来た妹尾くんが俯いて乃絵瑠ちゃんの頭を抱きしめる。


「ごめん、ノエル、ありがとな」


「たいとぉぉ・・・ひっぐ、えっぐ」


ナチュラルにいちゃついてる姿を見せられて、ちょっと嫉妬したでござる。まる。


「今日は、突然いなくなってごめんなさい。ちょっと、いきなりのことで整理する時間が欲しかったっていうか・・・」


「すまん、泰斗。俺はもう、おまえは大丈夫だと思ったから・・・」


おっふ。今の父親の発言はまた色々掻き乱しそうだな、と抱き合ってるカップル2人を見る。


いやぁ、改めて考えると、なんで俺、ここにいるんだろう?


「・・・・・・こんなところで話す話題じゃないな。とりあえず、中に行こうぜ」


妹尾くんの一言で、みんなズルズルと何かに引っ張られるように目の前を通り過ぎ、部屋に入っていく。


「何してんの?りゅーたも入ろう?」


「え、もう大丈夫そうじゃない?」


「うわぁ。・・・そりゃりゅーたにとっては何のこっちゃかもしれないけどさ。わたし1人で、今にも感情的になりそうな友人2人を止められるとでも?」


「うぐっ!」


そ、そうだ。ここで帰ってしまう楓ではない。この子は最後まで見届けるはずだ。なんだったら、かわいそうな妹尾くんをもっとサポートしてあげたいはずだ。彼はあんまり自分の気持ちを父親に対しては言えないみたいだからな。


でもなぁ。ここで俺らが踏み込んで行ってもなぁ。介入したところで、親子のためにはならんぞ?


って楓?楓さんや。勝手に行かないでぇ〜。

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(元)義理の娘が家出してきた。〜俺と一緒にいても楽しくないはずなのに、何故かずっといる とろにか @adgjmp2010

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