第67話 唐突に突

「こんな夜遅くにすみません」


「ど、どうしちゃったの泰斗。なんか、あった?」


玄関で立ち尽くしてる妹尾くんを見る。学ラン姿は少しくたびれていて、彼は顔を上げることなく俯いていた。


申し訳なさそうに、目を合わせないようにして彼はもう一度、お辞儀をした。


「隆太さん、こんばんは」


「こんばんは。とりあえず。上がってよ」


「あの・・・凄く迷ったんです。ほんとは、乃絵瑠の家に行けばいいんだってわかってる。だけど、あいつは受け入れてはくれるけど・・・わからないから」


ふむ。どうやら彼女さんでは解決できない案件のようだ。男のメンツもあるんだろう、といったところだろうか。


「とりあえず、泰斗は上がりなよ。ご飯はあるけどもう食べた?」


「あ、うん。食べてきた。で、・・・嫌になって、ちょっと出てきちまった・・・」




ーーーーーー


とりあえず、麦茶とみかんゼリーを冷蔵庫からせっせと出した楓は、チラチラと俺を見てくる。


テーブルに腰掛けた妹尾くんと目が合った。なんか初めて会った時みたいに値踏みされているような感じで見てくる。ただ、表情は憔悴しきっていて、彼から聞ける言葉は無さそうだった。


対面に座るのは圧迫面接みたいになりそうだったので、彼の左隣に座って、考えていることを述べてみる。


「乃絵瑠ちゃんちではなく、うちで、ってことになると、再婚系の話だと思うんだけど、違うかい?」


再婚ってところで、びくっ、と妹尾くんの体が震えた。なぜわかったんだ?って驚いた顔をして見つめてくる。わかりやすいよ。


「べっ、別に隆太さんの家庭が複雑だからってわけじゃなく・・・!」


おっと?なんか、取り繕おうとして、逆に墓穴掘ってるよなぁ。中学生だからしょうがないけども。


「いいよ。気にしてない。思ったまま喋ってくれて構わないからね?」


「すみません。・・・・・・父親が、交際相手を紹介してきたんです。さっき、一緒に食事に行きました」


「ええー!?泰斗のお父さん、再婚するの!?」


「いや・・・俺も・・・今日、さっき知ったんだよ・・・」


「それはなかなか穏やかではないね」


「そうなんです。・・・付き合っている存在すら知らなかったんです」


「ねね、どんな人だったの?」


「綺麗な人だったよ。それに優しくて、あまりの出来事で喋れなかった俺に話しかけてくれて、ずっとニコニコ笑ってた」


「良い人だったんだね!」


「良い人、うんだから余計にさぁ・・・・・・」


「とりあえず落ち着こうね泰斗」


上を見ながら泣かないように必死に耐えてる妹尾くん。その頭をいい子、いい子と撫でる楓。なんか楓も妹尾くんの扱いがわかってるようで、微笑ましくなった。


「んもう。泣くんだったらノエちんの所に送るよ?」


「すまん・・・悲しいんだ。新しい人も母親に似てて、すっごく辛いんだ」


「・・・・・・そっか」


「寂しさとか、父親がお母さんのことを忘れちゃうんじゃないかとか、色々、そう色々いっぺんに来てさ・・・俺、大人じゃないからわかんねーよ。この苦しい気持ちにずっと付き合いながら、2人のことを祝福しなきゃならないのかな?」

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