第二章 第64話 今を知る。先を知る。


「避難希望の親子が来るわよ」


焼肉を食べた日の2日後、朝一番に悠里にそんなことを言われて青ざめた。


避難希望、ということは、前言ってたように俺の実家に住ませる手筈なんだろう。


その実家の長男の俺は、まだイエスともノーとも言っていない。なのにおかしいよな?


「あのさ、保育所でもやるのか?」


「まさか。でも緊急なのよ。夫からのDVがひどいんだって。入居者の住所を公開しない隠れ家が必要よ?」


「どこだって住所公開なんてしないだろ」


「とりあえず隠れられればいいのよ。一応、最終確認。あんたからOKをもらったら、その人は赤ん坊連れて今日の夕方に来るわ」


「あー・・・。おまえさぁ、俺が断れないの知っててやってないか?」


「そうね。実際に会ったら情も湧くでしょうね。まだ会わせないけど」


「楓にはなんて言ってんだ?」


「楓は全部知ってるわよ。楓がお願いなんかしたらあんたは全部引き受けるじゃないの。だから、楓抜きで考えてほしいの」


なるほどなー。全て俺のことお見通しっていうのは癪なんだけど、その予想は当たりすぎている。楓から頼まれたら俺は何でもしてしまうだろう。


「いいよ。母さんが大変じゃ無ければな」


「ちゃんと家賃は取るから安心して?わたしは一応仲介人と管理者って立場だから。宜しくね」


「あのさぁ、これからめっちゃ人集めるのか?」


「入れてもあと一組よ。慎重にやるから心配しないで」


ちゃんと考えてくれてるなら別に俺から言うことはない。ただ、母親が親父のために通院して家を空けた時が怖いな・・・。


「ほんと、大丈夫なのか?訳あり囲って助けたい気持ちはわかるけど、おまえ以下の人間なんてたくさんいるし、甘くないぞ?」


「それでも、やりたい。わたしがわたしであるために、困ってる人を助けたいの」


「・・・・・そうか」


「そっちの会社で、契約は半年分取って来てるし、自由にさせてもらうわ。あと、簡易少人数カフェスペースも作る予定なの。子連れでもずっと過ごせる場所を作るつもりよ」


「わかった。無理はすんなよ」


「男子禁制だから、あんたに迷惑はかけない」


「いや、かかってるだろ」


「あなたには、家賃収入が入るようになってるわ。宜しくね、望月オーナー」


「おーなー!?」


眠気が吹き飛んだ。マジで、ひとつも相談せずになんてことをしやがるんだ。


「あとは、好きにしなさい。楓を頼んだわよ」


んー?しばらく様子見で悠里が実家に泊まる?


そんで、この家は楓と2人きりか。





・・・・・・えっ?


「あの・・・」


「楓、すごく張り切ってるわよ。一緒にハンバーグ作りたいんですって」


「いや、そういうことじゃなくて」


何か、特別な力が働いてると思わざるを得ない、そんな出来すぎたぶっ飛んだ話。


俺は、一周回って考えるのをやめた。とりあえず、仕事に行こう。

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