第51話 悪い奴は意外といる


警官のお姉さんに案内されたのは建物の裏手だった。侵入することができる裏口は一階には無し。そこで、隣のビルの出番である。


隣のビルの喫煙スペース跡地から螺旋状の階段が上に延びていて、門馬のいる会社の三階部分に繋がっているのだ。


非常用階段は、建物の内部を通るより、外部を通るほうが火災時の生存率が高いらしい。建物内部に閉じこめられて逃げられなくなってしまうことを考えると、俺も内部を通るより外階段派だ。


ただ、非常用階段を他の建物に依存するのってどうなんだろうと思う。いや、非常階段としては使えないけど残したのか。防犯面が不安である。


「喫煙スペースが無くて、ここに依存しているみたいなの」


「ああ。そういうこと」


会社から喫煙スペースを全て取り払った結果、歪な形で喫煙所を残したわけか。共同スペースってことなんだろうな。喫煙者の悠里なら吸えればどこでもいいから助かるわな。


「汚いよ?なんでここ掃除してないの?」


「吹き溜まりみたいなものだな」


「子供にはちょっと見せたく無いですね」


鉄製の階段に踏み潰した吸い殻がこびりついて風化している。隣のビルは飲食店が入っているんだっけか。掃除しろよ。


「なぁ、良いのか?他の警官と一緒に行かなくて」


「心配しなくても、後から来ますよ。警官って見た目怖い人もいるから楓ちゃんに気を遣ってます」


「楓は人を見た目で判断しませんっ!!」


「でもね、楓ちゃん。悪い人って悪い顔してないの。良い人そうにしてる人ほど注意してね。人が騙される入り口って、安心とか、信頼とかの、実績の無い胡散臭い笑顔だから」


「・・・笑ってる人もダメなの?」


「あなたのお母さんを見てどうかしら?無愛想だけど、人に対して笑ったりしないけど、それでも楓ちゃんにとったら1番の人でしょ?」


「・・・うん!そうだよ!」


「近しい人には笑ったりする必要が無いの。素のままの自分でいられるからね」


楓が俺の顔をじっと見てくる。俺は思わず笑いかけそうになるのを堪えて、それを見た楓が吹き出す。


「ぷふっ」


「なんだよ」


「笑って良いんだよ?楓のために笑ってくれるって、ちゃんとわかってるから」


「そりゃそうだ。俺は楓を騙そうなんて思ってないからな」


「望月さんは、人を騙すことなんて向いてないからやめた方がいいですよ?」


「うんうん。りゅーたはめっちゃ顔に出ちゃうから嘘つけないもんね?」


「あのなぁ・・・」


女子2人にいじられる。悠里がいなくて楓だけならまだ言い返せるが、警官のお姉さんにわざわざ言い返す度胸はない。


下からのごついおっさんたちの視線を感じながら、俺たちは三階に到達したのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る