第40話 平塚視点 過去編


「望月、合コン行こうぜ!!」


「おまえは俺に婚約者がいるのを知らねーのか」


「知ってるさ。けどよ、楽しそうじゃねぇよな」


親のコネで就職して、婚約者もいて、まぁ、後は近々結婚式でもやりそうな人生の絶頂期に、こいつは何暗い顔してやがるんだか。


「なぁ、婚約者の誕生日が近いんだが、何をあげたらいい?」


「早く結婚しろよ」


「それがさ、最近あんまり会えていなくて」


「なんだ?浮気か?」


「警察官の娘だぞ。やるわけないだろ」


「だよな、すまん。悪かった」


「いや、マジで何あげたら喜ぶんだろう?結婚してないのに、熟年夫婦ってこんなもんかなと思ったりしてる」


「おまえの人生に山とか谷は無いのかよ。そしてもう枯れてんのかよ」


「・・・求めてくれる人がいいな」


「求められて、ないんかい」


「いやさ、俺男なのに、頼りにされてない気がする」


そりゃそうだろうよ。望月自身がボンボンだからだ。一人息子で、お坊っちゃまみたいに育てられて、そんなやつを頼りにしないあたりが、警察官というか、一般女性のそれだな。


ということは、だ。


「おまえら、まだセックスしてねーの?」


「してないね」


「マジかよ」


「え?なんかおかしい?」


「いや、普通さ、もう知り合って3年、付き合って2年だろ?経験無いのがおかしいって」


「いや、警察官の娘だから、下手に手を出したらアウトだろ」


「ん?んんん?君たち付き合ってるんだよね?」


「うん」


「キスはしたの?」


「できるわけないだろ!」


「は?じゃあ、いつすんの?」


「結婚式の時に決まってるだろ」


「あー、まじかー」


常識人だと思ってたのに、およそ理解できない領域に望月がいるぞー。


「ちゅーぐらいしろ!手はつないでるんだよな?」


「最初に握手した以来触れてないけど」


「うおおおい!ぜっっったいおかしい!」


ちょっと待てよ!おまえ、絶対騙されてるぞ!




ーーーーーー



結論、望月家は全員揃って婚約者に騙されていました。


結婚詐欺だそう。え?相手普通に旦那さんいたの!?


望月家も立派な家柄をアピールしようとして、墓穴を掘ったようだ。


話を聞くと、望月の母親の理想が高すぎて、しかもめちゃくちゃしつこかったらしい。仲人が諦めて、それっぽい人を当てがったというのだ。


ただ、3年前のお見合いした時点では結婚も結婚する予定も相手には無かったため、その時点で相手は悪くない。


相手があまり望月のことを好きではなく、それを知った望月の母親が遊ぶ金を相手に渡していたらしい。月50万!?ヒェー!!


望月はというと、騙されたとらわかっても、スッキリとした顔をしていた。


え?望月、大丈夫か?


「必要とされてなかったから、わかってたよ」


さすがのボンボンも、そこまでバカでは無かったらしい。親に彼女とどこまで行ったのか報告させられていたのは可哀想だったが、そんな束縛から離れるために、自分で一戸建ての住宅を持ったし、親から離れる準備は万全だったのにな。


まぁ、俺はボンボンのこいつが一人で生きていけるとは思ってない。


「今日の合コン、来るか?」


「ノリがわからないから、教えて欲しい」


「よしきたっ!」


こいつ、しばらく独身でいるだろうから仲良くしてやるよ。朝まで付き合って、覚えろ!社会の仕組みってやつをな!

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