第33話 俺とおまえの違い

黒い全身を覆ったジャンバーの人物に突き飛ばされる。


月明かりが下に沈むように俺の視界が流転して、俺は玄関の床に倒された。


しまった!


一切の光を遮るように、俺の目の前が黒く覆われた。相手が馬乗りになっていた。


声を上げることができない。単純な恐怖ではい。


ーーーーーー首を、絞められた!


「なぁ、答えてくれ、なんで、おまえなんだ?」


分が悪すぎる俺の体勢を見てか、冷静に問いかけられた。


話をする気がある、だと?


焦りすぎてわからなかったが、わずかにだがしゃべれるように手の力を加減されていた。


クソッ!


「おまえもわかるだろ?悠里のことだ。まさかあんなにガードが硬いと思わなかった。今、俺はおまえを抑えてはいるが、なるほど、ヒョロくて女相手でも負けそうだ」


「そ、れ、は・・・よか、ったな・・・!」


こいつはまだ俺と話す気がある。それがわかっただけで、俺はこいつの隙を探ることにした。脱力して力を貯めるしかない。


「で、蓋を開けてみたらほんとに何もできない。しかも、娘まで母親の味方をしやがる。最初から俺の居場所なんて無かった。・・・ハメられたんだよ。俺たちは」


たった数秒しゃべっただけで、こいつの言いたいことがわかった。


つまりは、ヤリたかったんだろう。


一緒に生活していれば、助けてあげれば、お金を出せば、ご機嫌を取れば、すぐに欲望のままに抱けると思っていたに違いない。


俺も最初はもしかしたらそんな期待があった。だからそう思うこと自体は悪じゃない。


水子の話を聞く前ならばな。


「なぁ、籍入れないで家族になるっておかしくないか?おまえも同意したんだろ?なぁ?」


「いつでも、出て、いっていいって・・・言われ、なかったか?」


「言われたさ。そこに何の幸せがある?俺はアイツらのATMじゃねぇ!」


ダン!と床に拳が叩きつけられる。


「家族のふりをして、家族のために尽くしても信用されず、常に1人だったよなぁ?おまえもそうだろ?」


フードの中から、水滴が落ちた。


ーーーーーー違う。


そこが、こいつと俺との違いか。


出て行っても、楓は俺のことを考えていたらしい。だから、目の前のこいつに楓が構うことがないのが容易に想像つく。


悠里はどう思ってるかは知らないが、悠里はもしかしたら俺のために出て行ったのかもしれない。


そうか、こいつは、被害者だった。


でも、だからって、


「楓に、手を、出す、馬鹿が、、、、いるかぁ!?」


荒げられない声と空気は喉を逆流するようにして、つっかえていた。


こいつは確かに被害者だ。


俺も責任の一端はある。


悠里を自由にした俺の落ち度だった。


「俺に残されたのは、楓の成長を待って手込めにすることだったんだよぉ。それぐらい、いいだろう?」


フードの奥の目が光った。


水滴は粘着質のある液体に変わり、目の黒玉は明後日の方向に向き、口がだらしなく開けられていた。


ビチャ、ビチャ・・・・・・


こいつ、興奮して涎垂らしてやがるのか!


「返せよう!!俺の時間を返せ!!!金を返せ!!!名誉を返せ!!!全部返せ!!!俺の女を返せ!!!かえでおぉう、かえせええええええ!」


喚き散らされ、唾が顔にかかる。


もしかしたら、こいつには悠里が水子の話をしなかったのかもしれない。


もし、話をすれば納得できたか?そうじゃない。


こいつは、自分をコントロールすることを忘れた性欲お化けだ。


「う、る、せえええ!!」


顎に本気の拳をお見舞いしたら、手が離れて相手がのけぞった。俺は足蹴りして体勢を立て直す。


「かえでええええ!!!いるんだろおおお?かえでえええ!?」


二階に行こうとしたやつの腕を引っ張って壁に叩きつける。


「が、え、でえええ!!!おまえ、邪魔だよおおお!!」

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