第30話 サラシを必死に巻く

「ハアアアアアアッ!」


「ッッ!!」


「イタタタ!腰を強く巻きすぎ、巻きすぎっ!」


「あのさ、もっと静かにやってもらえる?」


居間にいても、洗面所から楓の気合が入った声が聞こえてくる。


現在、楓と乃絵瑠ちゃんが2人がかりで悠里を縛り上げている。いや間違えた。できるだけきつくサラシを巻いている最中だ。


「乃絵瑠ちゃんもやってよっ。この人のおっぱい下から持ち上げるの手伝って!」


「お、おっぱいって潰しても大丈夫なのぅ?」


「自分のおっぱいで試してからにする?」


「しょうがないわね。まずはお母さんがお手本をやってあげるわよ」


「きゃー!脱がさないでぇ!えっちなの禁止ぃ!」


どうにも楽しそうな声が聞こえてくる。平塚がいたら飛び込んで行きそうだ。俺はそんな変態なことはしないけどな。


土曜日の出勤は平塚によってストップがかかった。できるだけ楓ちゃんのそばにいろという平塚の気遣いだった。


土日に営業する場所なんて、平日の半分も無いらしい。会社の重役たちは土日に休んでいるから、おまえもそうしろと言われた。


入社して一週間も経たずに重役扱いとは・・・まぁ、今は平塚に甘えるとしよう。元々試用期間だから、そんなに給料期待してないし、楓が落ち着くまでは家のことに専念するか。


「あらあら、将来有望ね。あなた、本当に中学生?」


「ほーらっ、大きいけど、全然痛くないでしょ?このままコスプレとかしてみよっか!男性衣装買ってこようっ!」


「こ、コスプレやるならかえでちゃんもやってよぅ」


「じゃありゅーたに何のキャラが良いのか聞いてからねっ!」


いつの間にか関係ない俺を巻き込まないでくれるかな?早く悠里にサラシ巻いてくれないかな?難しいならそれこそコスプレ専門店とかに行って女性店員さんに巻いてもらえば良いし。


「楓にも巻いてあげるわよ。ほら、脱ぎなさい」


「いやーん!わたしの体はりゅーただけのモノなのーっ!」


「楓ちゃん、着痩せするタイプだからぁ、羨ましいなぁ」


ふぉっふぉっふぉっ。若いおなごが何か言っておる。わしはおじいさんだから女性に興味なんてないのじゃ。ふぉっふぉっふぉっ。


ダッダッダッ!


「りゅーた、サラシ上手く巻けたよ?」


楓がサラシを巻いたままの格好で居間まで来た。短パンを履いているので、なんか女剣士?みたいに見えなくもない。


「楓、遊んでないで悠里のを終わらせてくれ」


「お母さんじゃなくてっ!ほら、楓のサラシのここを引っ張って遊ぼう?」


サラシを解いたことないからわからないのだが、あれだろうか。お殿様が帯を引っ張ってあ〜れ〜って女性が回るやつをやりたいのか?


「おじいさんは何のことかわからないなぁ」


「りゅーたが急激に老けたっ!?」


「いいから、乃絵瑠ちゃんも来てるんだからちゃんとしなさい」


「照れてるんでしょー?しょーがない、2人だけの時はイチャイチャしようねっ?」


「はいはい」


俺からの適当な返事にも、楓は満面の笑みで返してくれる。


それだけで嬉しくなって、俺の顔の表情が少し緩んでしまった気がした。


すごいよなぁ、こいつ。ほんと、ずるいやつだ。

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