第29話 どっちも大事
悠里の事情聴取が終わった。
再婚相手に狙われているのが楓だけだとわかって、警察が動いてくれるのかと思いきや、少しトーンダウンする形になりそうだ。
端的に言うと、警察の思惑、やりたいことは楓を泳がせて現行犯逮捕だった。
もちろん、俺は反対したし、悠里もちゃんとそれは危険だということを訴えたらしい。だが、同時にこんなことも言われたそうだ。
「親が親としてしっかりしてるのであれば、余程のことがなければ娘さんに危害が及ばない」
これを悠里から聞かされた時、俺は警察署に戻って文句を言いたくなったが、平塚に止められた。むしろこれはチャンスだと平塚は言うのだ。
何がチャンスかわからない。もう、楓に実害が出ているのに、悠長に相手が動いて来るまでただ待ってろというのだろうか。全然納得がいかなかった。
だが、ここで俺が荒れたら楓が心配してしまう。だから頭を切り替えて、俺はどうしたらこの子を守りつつ、再婚相手にやり返せるかを考えることにした。
助手席で悩む俺を平塚が肘で小突いてくる。
「よう。父親の顔してるな」
「やめてくれよ。再婚相手と比較して欲しくない」
「そこまで言ってねーよ。単純に褒めただけだろ?」
「りゅーた、わたしは捕らわれのお姫様になればいいの?」
「いや、ちょっと待って?楓?」
後ろの悠里は楓のぶっ飛んだプラス思考にただ唖然としてる様子。
楓が落ち込んだり、悩んだりするよりは良い。こいつが表面上明るいだけでもこっちとしては救われる。
「おまえのアイデアにちょっと楓ちゃんの役目を追加する。名付けて『わざと捕まりに行く作戦』だな」
「俺がそれを許すとでも?」
「ほらほら、後ろの彼女はその気だぜ?」
「りゅーた、わたしにしかできないことって、それ!?」
「んな危険なことさせるかぁっ!」
「しっかしあれだな。遠回しに変な男に捕まってんじゃねーよって警察から嫌味言われたみたいだな」
「・・・耳が痛いわ」
「もっと痛くなってしまえ」
「隆太と出会って、隆太の優しさに触れて、勘違いしたのよね、わたし。世の中、そんなに上手くいかないものね」
「なんか、他人事だな。おまえ、ちゃんと楓の心配してるのか?」
「ええ、してるわよ。でもこの子が選ぶ道は、そんな輝かしいことばかりじゃないって、ちゃんと教えないと」
「なんだぁ?望月が楓ちゃんに盗られたから嫉妬してんのかぁ?」
「違うわよ。わたしも、楓も自業自得なのよ。この子、強いわよ。りゅーたと一緒になるための良い障害だと思ってるみたい。お気楽ね」
「いくらお母さんでも言い過ぎじゃない?楓だって、お母さんに言いたいこといっぱいあるよ?今この場で言おうか?」
「・・・なによ」
悠里が一応言い返したみたいだが、この口喧嘩勝負は決している。
楓は、どうやら自分が子供であるという身分ですら武器にして戦うつもりらしい。大人の考えを持った自由奔放な子供というのは恐ろしいと思う。
まだ失敗を知らないから、楓は口ではいくらでも言えてしまう。これが吉と出るか凶と出るかはわからない。俺の育て方、なかなか甘かったからな。そういう自覚はある。
「いやはや強いねぇ。望月、絶対楓ちゃん離すんじゃねーぞ。逆境でも開き直るやつはなかなかいない」
「俺はある程度楓を育ててる自負はあるんだが、おまえ俺のことけなしてるだろ?」
「生まれが大事か、育てが大事か、どっちかわかったんじゃないか?」
ふん。話をすり替えたか。くそったれ。
「生まれも育ちも、どっちも大事だ。悠里がいなきゃ、楓はここまでしっかりと育たない。良い反面教師がいるからな」
「最後にやっぱりわたしを馬鹿にするのね。呪うわよ?」
「誰も馬鹿にしてないだろ。褒めてんだよ。な?平塚」
「そこで俺に振るか!?」
「りゅーた、昔よりお母さんに言い返せるようになったね。どうしたの?」
「ん?そうだな。楓を見てるとコツが掴めるというか・・・」
「・・・最悪」
「オイオイ、仲良くしろよ。今からでかいことやるんだろ?」
「平塚おじさん、多分これが新しいウチらの家族コントだと思うよ?喧嘩はしないから、慣れてね?」
「まじかよ。ついていけねーわ」
「コントするなら帰るけど」
「お母さんのサラシ、楓が巻くからダメ」
「包丁で昨日の魚のように切り落としてあげたいわ」
バックミラー越しに悠里の圧が伝わってくる。流石にやりすぎたので、俺は目を背けた。
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