第26話 ほんとに嫌な世の中だ
仕事が終わったようで、俺の家にサンプルの水とコーヒーを置きに来た平塚。たが、様子がおかしい。
「平塚、何してるんだ?ダウンジング?」
「ちょっと黙っててくれないか?聞こえないからよ」
17時頃、悠里と入れ替わりで平塚が家に来た。
営業先で、契約の代わりにストーカー撲滅マシンを売りつけられたらしい。
「おい、ちょっと待て。うちには何にもやましい物はないぞ?」
「ふぅ、一階はOK。二階に行ってもいいか?」
「平塚さん、どったの?そんなに入念にやる必要、ある?」
「いやさ、盗聴器とGPSって超手軽に取り付けられるんだとよ。一個千円くらいらしい。嫌な世の中になったよな」
「お、おう。つーか、その装置いくらしたんだ?」
「レンタルだよ。一万円で一週間借りることにした。おまえ、俺の代わりに返しに行ってくれないか?結構ためになる話聞けるぞ?楓ちゃんのためにもな」
「どこに営業行ったらそんな格好になるんだよ」
ヘッドフォンをして、ラジカセみたいなものを腰にぶら下げて、金属の棒を持ってウロウロする平塚。
ちょっとした不審者である。
「見られちゃ不味いものとかあるか?ああ、お楽しみだったなら消臭ぐらいしといてくれ」
「消臭?なんでー?」
「いらんことを言うな。二階は綺麗になってるから大丈夫だよ。さっさと行けよ」
「おう。そこまで信頼されてるのは嬉しいねぇ」
と、階段を登り切ったところで、平塚が黙る。金属の棒を白杖の使い方のように振り始めた。
楓のキャリーケースのところで金属の棒が止まる。
「なぁ、楓ちゃん。携帯かなんか、中に入ってるか?」
「勝負下着なら入ってるよっ!」
「いや、そういうのは望月と二人だけの時やってくれ」
「このケースが怪しいの?恥ずかしいけど、開けた方がいい?」
「いや、待て。大丈夫だ。ほら、外側の底に何かがついてる」
平塚がキャリーケースを倒して、車輪の横についているその何かを発見した。
「ノイズの原因はこれかよ。盗聴器とGPSだな」
「えっ?」
楓の顔が真っ青になる。
は?これが、このボタン電池みたいなやつが、盗聴器とGPS!?
「とりあえず、外すぞ」
そういうデザインかと錯覚してしまいそうなほど、そいつは目立たないところにくっついていた。否、縫い付けられていた。
「りゅーた、これ・・・アイツに買ってもらったやつ・・・だよ?」
「全く向こうから音沙汰無かった原因は、これか」
どうやら、再婚相手は楓がどこにいるか知っていたらしい。だから、追っては来ないんだ。もしかしたら、楓はわざと泳がされていたのかもしれない。
「ごめん、りゅーたっ、おうち、バレちゃった・・・!」
楓が俺の胸に飛び込んできた。声を押し殺して、泣いている。
畜生。再婚相手の野郎、絶対許さないからな!
「警察に言うか?」
「そうだな、一度警察に行ってみよう。楓、来れるか?」
撫でていた頭が、こくんと揺れる。
悠長にしていられなくなったな。
楓、大丈夫だ。ひとつひとつ、行動して行こう。
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