第23話 君のもしかして弟か、妹の話。
夕食後、片付け終わったテーブルで、悠里が話し始めた。
「楓?わたしがなんで、楓の本当のお父さんと別れたか、知ってる?」
「ううん、知らない」
「お母さんのお腹にはね、海っていう、赤ちゃんがいたの。楓が3歳の時にね。でも、海には会えなかった。だから、お父さんが怒って、別れたの」
「・・・・・・」
楓が、黙って悠里の話を聞いている。
実の親をどのように伝えるかは、俺の仕事ではない。実の父親を良く見せようと考えている悠里にも、反対する立場に無い。
「お母さんが、無理しちゃったから、海には会えなかったの。全部、お母さんのせい。ごめんね。海は、楓にも会いたがっていたのに・・・」
「お母さん。お母さんは、悪くないよ?楓は、知らなかったけど、お母さんがわたしのために頑張ってたのは、わたしが1番、良く知ってるから」
「ありがとう。それでね、わたしはもう、赤ちゃんを作らないことにしたの。海のように、生まれたくても生まれない子供を作らないように、ね。
男女が赤ちゃんを作るには、抱き合ったり、キスしたりして、その延長でできちゃうから。だから、お母さんは、そういうことを一切しないようにしようと心に決めたの」
「ーーーーーー!!」
楓が、ただただ、驚いていた。楓は、口をパクパクさせて、言葉を出せないようだ。
「だから、隆太にはとても辛い思いをさせてたの。でも、最初からそういう約束だったのよ?ねぇ、隆太?」
「そうだな。悠里の言う通り、一緒に住むにあたってそういう約束をしたんだ。わかりやすく言うなら、イチャイチャ禁止だな」
「そう、なんだ。楓は、何にも知らないで、お母さんの気持ちもわからないまま、りゅーたの味方して・・・」
「いいのよ。だから言ったじゃない。わたしは、楓がいてくれるだけで、それだけでいいの」
「お、かあ・・・さんっ!ごめん、な、さい・・・」
楓が泣き出してしまった。涙の粒がたくさん落ちて、止まらない。
こうなることは、想定済みだ。楓には、本当に何も、教えてなかったからな。
教えても良いと俺は思っていたが、結局黙っていた。全部、悠里の指示だ。
まぁでも、楓には、伸び伸びとまっすぐに育って欲しかったからな。家族の辛い過去は、思い出すたびに幸せの邪魔をしてしまう。
今、このタイミングだから、悠里は楓に話したんだろう。もう、自分で物事を考えられる、賢い子に楓はなった。
どうする?楓。今までの虹色の景色とは、大分違うはずだ。
「楓、いいの。ありがとう。楓がいなければ、お母さんは今日まで生きて来れなかったわ。今日、やっと楓に、赤ちゃんの話できて、お母さん、嬉しいわ」
「おかあさ、ん!おかぁ、さんっ!!」
「あらあら、いつもの元気はどうしたの?わたしはもう、隆太のおかげで立ち直っているのよ?楓が知らなかったからって、こんなに泣かれたら、困っちゃうわ」
悠里。そんなこと、できるわけないじゃないか。おまえだって、何年も苦しんで、流産してからの10年目にようやく、自分を許せたって言ってたじゃないか。
「ひっぐ。りゅーた、ありが、とうっ。えっぐ。おかあさんをっ、支えてくれて、ありがとうっ!!」
「はいよ。まぁ、立ち直ったみたいだから、捨てられたんだけどな」
「そうね。立ち直らせてくれて、感謝してるわよ。《だからこそ》、なんだけどね」
ふぅ。今なら、悠里の思ってることがわかるぞ。なるほどな。だが、そこまでする必要があったのか?
「最悪だ。俺の暗黒の2年間を返しやがれ」
「勝手に潰れただけじゃない。でも、そんなにわたしが好きなのね?嬉しいわ」
「楓が、お母さんと、りゅーたを、幸せにするんだからあああ!!でも、お母さんは、りゅーたに今更近づいちゃ、ダメだよおお!」
楓、おまえのお母さんが、どれだけ苦しんでいたか、どれだけおまえに救われていたか、わかったか?
その上でおまえとは、話をしなきゃならない。楓は、悠里を守れと俺に言うのか?楓の意見を聞きたい。
だけど、今はまず、変態再婚相手をどうにかしないとな。
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