第21話 平塚に自慢した


「いやー、望月、マジで助かった。冷や汗ダラダラだった。よくやった!お手柄だぞ?」


「あれはおまえが悪いよ。ちょっと時間見つけて顔出してれば、あそこまで言われないだろ?」


もう、昨日の平塚の威厳が全く感じられない。


新規客獲得してたほうが良いのは当たり前だが、既存客をないがしろにして、足元を見られるのはやばすぎる。会社にクレームが行けば、それはそれで時間取られて効率悪いし・・・。


「ってことで、もう13時過ぎたか。昼飯だな。コンビニで軽く済ませていいか?」


「こっちは弁当あるから、平塚の好きにしろよ」


「弁当?あっ、おまえ楓ちゃんに作ってもらったな!?」


コンビニで平塚がカップ麺とキャベツの千切りを買ってきた。おいおい、もっとマシなの買ってきてくれよ。俺が食いづらいぞ?


「・・・おまえ、いつもそんなもんしか食べてないのか?」


「夕飯を豪華にしたいから、昼飯は質素だ。早く開けろよ。楓ちゃんの愛妻弁当だろ?」


俺は弁当の蓋を開けてみた。


オムライスカレーだ!あとは、おひたしとミニトマトが入っている。


「くあー!いいよなぁおまえは!なんか、覚えたての料理って感じがまた!」


「うっせぇぞ。楓のことバカにすんな。っもぐ。美味い。めちゃくちゃ美味い。卵がふわふわだ!」


ちょっと待て。俺、オムレツなんて作れないぞ?楓が2年間で料理の腕を上げまくっている。


「おい、一口よこせよ」


「楓のことバカにするやつにはやらん!」


「ぐあー!楓ちゃんに愛されてる、おまえが羨ましかっただけだよ!あ、そういえば、楓ちゃんに言われてたんだった。次もう一件行ったら、今日は上がっていいぞ?」


「いいのか?」


「後で楓ちゃんに怒られるのだけはゴメンだ」


平塚は楓に弱いらしい。今日は早く帰りたかったから、ここは平塚の気遣いに甘えるとしよう。


よし、あと一件、無事に契約できるように頑張りますか!




ーーーーーー



「今日は助かった。じゃあ、また明日なー」


「おう、送ってくれてありがとう」


まだ3つ分の水タンクを乗せたハイエースが走り去っていく。今は15時過ぎ。思ったよりも早く終わって良かった。


楓が帰ってるかもしれない。俺は家のチャイムを鳴らすことにした。


ピンポーン。


「りゅ、りゅーた!びっくりしたぁ!誰かお客さんが来たかと思ったじゃん!」


「あ、ごめん。普通に入るわ」


「待って待って!今鍵開けてあげる」


そう言って、バタバタと音がしてくる。


ガチャリとドアが開くと、楓が満面の笑みで迎えてくれた。


「りゅーた、おかえりー。お仕事お疲れ様っ」


「ただいまー。楓の弁当、美味かったぞ?」


「えへへ。ありがとっ!美味しくできて良かった!」


と、ニコニコしてる楓の顔をずっと見ていたかったのだが、俺はそれよりもある場所に注目してしまった。


玄関に見たことのある靴が並んでいる。


あっ、こいつは・・・。


「隆太さん、久しぶり。お邪魔させてもらってるわ」


川瀬悠里。俺の元嫁。


2年前と変わらない姿で、こいつは現れたのだった。


「お、おう。久しぶり。夜に来るって言ってたのに、早かったんだな?」


「時間を潰す場所が無かったの。さっき、コンビニで楓とばったり会ったから、そのまま家まで来たの」


「そ、そっか」


んー、上手く喋れない。なんだろ?距離感がまだ掴めない感じか?


「りゅーた、着替えてくるでしょ?今日は何食べたい?」


何食べたい?か。あ、そういえば、カツオ一匹丸々もらったんだよな。俺捌けなくて、困ってたんだ。


「悠里、カツオ解体してくれないか?」


「魚が来ると、わたしに頼むのやめなさい?わたしがいなかったら、どうするの?」


「いるんだから、いいだろ?」


「もう、しょうがないわね!切れる包丁、あるの?」


台所に行ってしまった悠里。魚屋のおっちゃんありがとう。悠里とのやり取りの感じを、やっと思い出せた。


「お母さん、張り切ってるね?」


「何もしてないのが耐えられないんだろうな」


「じゃあ、楓も魚の捌き方、教えてもらおうっと!」


そう言って楓も台所に向かった。


あ、冷凍してるとはいえ、ちょっと色が悪くなっているはずだ。


俺はひょこっと顔を出して、悠里に言う。


「あ、カツオは色悪いだろうから、軽く炙ってね?」


「うっさい!自分で処理できないのに、もらってこないでよ!」


「ごもっともです」

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