第20話 ※楓視点 お母さんはお母さんだ


学校近くのコンビニを通ったら、めっちゃ見たことある人がいた。


お母さんだ。


「どったの?約束の時間より早いじゃん。お母さん、来るの早すぎー」


「あら、楓。早いわね。1人なの?」


テストが終わってちょっと早帰り。13時過ぎに学校から帰ると、お母さんがコンビニの外でタバコを吸っていた。


側には、紫色のキャリーバッグがある。わたしのと同じメーカーで、高いものだということは知ってる。


「りゅーたが楓のこと守ってくれるってわかったから、今日は怖かったけど、ひとりで帰ることにしたんだよ」


泰斗と乃絵瑠ちゃんに悪いし、いつまでも甘えてはいられなかったからね。


「まだ、あっちがどんな動きしてるかわからないから、誰かそばにいて欲しかったのに」


「りゅーたがいるから、大丈夫だよ?お母さんの方こそ、大丈夫?」


「今のところはね。あんまりこんな場所にいちゃいけないんだけど、もう、どこにいても一緒よね?」


そう言って、タバコをふかすお母さん。


秋なのに、結構薄着だ。白のニットセーター着てるから暖かそうだけど、肩が出てるし、中はあと下着しか着けてないのを知ってる。


極め付けは、ミニスカートを履いてるということ。もう、30歳だよ?流石に、厳しくなってきたんじゃないかなぁ?


でも、お母さん、胸はでかいし、足はすらっとして長くて綺麗だし、男の人は、こういう女性が好きそうだ。


楓から見ても、お母さんは普通に目を引く美人さんだ。だから、もうちょっと地味な格好をしてほしい。アイツに見つからないためにも。


りゅーたと暮らしていても、いっぱい男が寄ってきて、りゅーた、大変そうだったなぁ。


少しは、露出を控えたらいいのに。無防備な感じでフラフラするから、変な人に捕まるんだよ?


「楓は、やっぱりお母さんに似てきたわね」


お母さんにそう言われて、嬉しいような、りゅーたに悪いから悲しいような、複雑な気分だ。


「りゅーたの家で、家に入って話そうよ」


「わたしを家に入れる気?」


「りゅーたは、まだ帰ってこないよ?ずっとそこで待ってるつもりなの?」


わたしの言葉に、黙ってしまったお母さん。だけど、ついて来る気はあるみたい。ガラガラとキャリーケースの車輪の音が聞こえる。


「待ってよ。タバコ一箱買ってくるから」


「ダーメ!うちをヤニだらけにはさせませんっ!」


「あんた、隆太さんの家の住人じゃないでしょ?」


「あそこの家の主人のお嫁さんになる予定なんですー!ダメったらダメ!」






ーーーーーー


りゅーたの家に着いて、鍵を開けた。


わたしが先に入り、お母さんは、周りを見ながらゆっくりと入ってくる。


「へぇー。意外と綺麗にしてるのね」


「楓が掃除しましたー」


「やっぱり?ひとりぼっちの男はダメね。すぐ汚くするんだから」


「足の踏み場もない、ゴミ屋敷レベルだったよ?」


「えっ、マジで?」


お母さんが引いてる。わたしもびっくりしたけどね。でも、りゅーたを苦しめた原因は楓だし。ちゃんと綺麗にしましたよ。


「お母さん、これからどうするの?ちょっとぐらいなら滞在を許可しますっ!」


「あんた、性格悪くなってない?」


「りゅーたのためなら、何にだってなるよ。楓は、お母さんみたいに図々しくないから」


「わたしが何もしてなかったみたいに言うじゃない。あんたはまだ、そう言い切っちゃうところが子供ね」


「図星だからって、子供ってワード使わないでくれる?」


そして喋らなくなるお母さん。都合悪くなると、いつもこれ。慣れたけどね。


そうやって黙っていれば、相手から優しい言葉をかけてもらえると思ったら、大間違いだよ?


まぁ、そこまでお母さんに言うつもりはないけどね。


「このベコニア、大きくなったわね。ずっと、隆太さんが世話してくれてたのかしら?」


部屋の端っこにある、植木鉢から高く伸びているベコニア。中ぐらいの赤い花がたくさん咲いている。わたしは植物や、お花のことは良く知らないけど、りゅーたがお母さんにお花をプレゼントしたのを覚えてる。


「この花ね、暑さと寒さと、乾燥に弱いのよ?だから、おうちで育てるのがいいみたいなの。隆太さん、これだけは捨てられなかったのね。なんだか、嬉しいわ」


ちょっとだけ、嫉妬しちゃうわたしがいた。


でも、そんな過去の話、いつまでも引きずってても、幸せになんかなれないから。


だから、楓は楓のやり方で、これからを頑張るんだからね?

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