第19話 仕事始め。平塚もパニック


「よぅ!約束通り迎えに来てやったぜ!」


「その後ろに積んである大量の水はなんだ?」


なんだか、嫌な予感がする。


「これか?新商品だ。といっても、今のニーズに合ってるとは言い難いがな」


翌朝9時に家に来た平塚は、でかいハイエースで俺の家の前に横付けしてきた。


後ろには、水のタンクが大量に積まれている。


「ウォーターサーバーか?昨日、こんな話してなかったじゃないか」


「コーヒーサーバーと、給茶器と、ウォーターサーバーを同時に売る作戦だ。昨日思い付いたんだ。冴えてるだろ?」


「いや、大丈夫か?これ・・・」


「とりあえず、今日は企業を回って水の設置の営業だ。行くぞ!」


えーっと・・・大丈夫なのか?


「ウォーターサーバーの設置方法は?」


「知らん!」


「はぁ!?ちょっと待て。料金は?ペイバックは?」


「それは急いで作ってきた。これを読んでくれれば、料金交渉もバッチリだ!」


どれどれ?おおぅ。一言で言うと雑、だな。


「今なら3つ全て設置で1000円引きって、大丈夫なのか?」


「俺を信じろ!」


「嫌だああああ!!!」



ーーーーーー



それからなんだかんだで、一件目、二件目と順調にウォーターサーバーの設置をこなしてきた俺たちだったが、3件目に難敵が現れた。


「ウォーターサーバー?ちょっとねぇ。最近、水道水を飲み水に変える、よさげな営業が来たんだよ。君のとこの全部やめて、そっちに変えようかと思ってたんだけど」


俺の嫌な予感は的中した。3件目は、事務所がひとつしかない、小さな企業だった。そりゃあ、水道水を使ったほうが安上がりだし、コーヒーやお茶だって、自分で作ったほうが安い。


「一ヶ月でいいので、試して頂けませんかね?損はしないと思いますよ?」


平塚がそんなことを言うが、対面の社長の顔が渋い。俺だって、新聞とってください、一ヶ月だけでいいのでっ、ていう営業、いっぱい来てるからわかるんだよ。そんな言い方じゃ、売れないぞ?


ここは、俺が助け舟を出さねば。


「社長、確かに、水道水を使った方が、安上がりだと思います。でも、緊急時のことをお考えですか?」


「緊急時?」


「はい!地震で水道が止まった時に、この水タンクのストックがあれば、役立ちます。飲み水には困りません」


「なるほど、一理あるな。だが、だったらコーヒーサーバーと給茶器はいらん」


「3つセットでご契約されるのでしたら、わたしが週一回、在庫確認に参ります。水だけだったら、一ヶ月に一回しか来れません」


「なら、君が来いよ?一週間に一度、必ずだ。来なかったら、解約するからな?」


「はい!わかりました!」


「君は、望月と言うんだな?この平塚ってやつは、口だけで、全然売った後に来やしない。君は、こいつとは違うやつだと願っているよ」


「ありがとうございます!ほら、平塚も謝れよ?」


「申し訳、ありませんでしたああああ!」


よし、なんとか、契約を継続させたぞ?


平塚ァ!しっかりしろよ!貸し1だぞ?


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