第18話 楓と買い物
買い物の行き先を決めかねていた俺だったが、楓はもう行き先を決めていたらしい。助手席から、早く行こう?みたいな感じで目配せしてくる。
「え?どこ行けばいいんだ?」
「駅前の商店街でしょ!『ガールズハネムーン』だよ?」
あ、あそこの異名、まだ有効だったんだ?
「よし、では行くかぁ」
「れっつごー!!」
ーーーーーー
車を走らせること、15分。駅前の商店街は、夕方の買い物に来ている主婦で賑わっていた。
男性の買い物客が1人もいないのは気になる。だが、それもそのはず。ここの商店街は女性に優しいことで有名なのだ。
なぜかって?お店に立つ店員の顔を見ればわかる。
ここの商店街は、男の店員しかいないのだ。
それゆえ、非常に女性に優しい。男性には厳しい。
世の中、理不尽だよな。
「八百屋さーん。ひさしぶりっ!」
「おお!楓ちゃんじゃねーか!今日は一人で買い物か?偉いなー!」
「彼氏と一緒だよー?」
「かぁれぇしぃ?」
八百屋のおじさんが俺を睨んでくる。俺もおじさんだが、このおじさんよりは若いと思う。
「なんだこのもやしみたいなやつはっ!楓ちゃんにお似合いなのは、そうだなぁ、あそこの電気屋の息子とかどーよ?」
「八百屋さん、この人、りゅーただよ?」
「りゅーただと!?」
「あ、お久しぶりです」
「た、確かに大分痩せこけたが、りゅーただ。てめぇ、楓ちゃんを一人にして、どこをほっつき歩いてたんだよ!?」
いや、ほとんど家にいただけなんですけど・・・。
「おじさんっ!りゅーたはね、2年間修行をして、楓という真実の愛を見つけたんだよ?」
「し、真実の愛だとぉ!?俺は、まだ、それを知らねー!」
あ、この八百屋さんまだ独身だったんだ。ここの商店街の店は結婚すると閉店してしまうと聞く。元気に店をやってるってことは、みんな奥さん募集中なんだろうな。
「くそっ。まさか楓ちゃんまで・・・野郎ども!今日はめでてぇ二人に特売だ!!」
「うおおおおおおお!!!」
どこから湧いて来たのだろうか。魚屋さんや畳屋さん、お肉屋さん、ドバイのカレー屋さん、餅屋さん、豆腐屋さん、駄菓子屋さんまでいる。
この人たち、みんな独身かよ!
「さぁ、今日は楓ちゃんのために出血大サービスだ!買ってくんねぇ!!」
「みんな、ありがとーっ!」
いや、嬉しいけど畳屋さん?あんたからは何も・・・何ぃ!?寝室の畳を激安で張り替え!?・・・考えておこう。
ーーーーーー
「ということで、カレーライスになりますっ!」
「ですよねー」
家に帰って、買ったものやもらったもので献立を考えていた楓は、すぐさま夕飯を決めた。
俺も手伝うと言ったのだが、旦那様は座っててと言われた。楓の機嫌が良いので、言われた通りにしておこう。
ドバイのカレー屋さん、絶対すぐ潰れると思ってたんだけどな。俺が知ってる限りでは、10年も続いている。めっちゃルー渡してくるし。まぁ、美味いからいいけど。
いかつい顔の謎の微笑みで、「シンコンサンヨウノルーネ」って渡されたやつ以外はなっ!!
「楓のおかげで、安く買えたよ」
「でしょー?あそこの人たち、楓に優しいもん!」
さりげなく俺のこと彼氏アピールしてたしな。楓はどこまでアピールするんだろう?
職場には、まだやめてほしいな。
「そうだ!明日りゅーたにお弁当作ってあげるねっ?」
「助かるけど、大変じゃないのか?」
「少しは嫁を頼りなさーい。平塚さんにお弁当、自慢して良いよ?」
よく頭が回る子だ。まったく、明日平塚になんて説明しよう?
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