第17話 楓の攻撃がはじまった


「りゅーた、おいで?」


「ん?人の携帯を覗く趣味はないぞ?」


「いいからいいから〜」


俺が楓の近くまで寄ると、楓は俺の胡座をかいたスペースにちょこんと座る。俺を椅子の代わりにしたいようだ。


楓が後ろを振り向くと、俺の両手を前の方にクロスさせられて、楓のお腹あたりのポジションにて、俺の両手は落ち着いた。


「遠慮しないでもっとぎゅっとしていいよ?」


「楓?何のつもりだ?」


「恋人ごっこ」


ふむ。楓は俺のお嫁さんになりたいって言っていたから、もう楓の中ではらしい。


まいったな。楓と再会して二日目にこれじゃあ、身がもたないぞ?


「ねぇ、一緒に動画見ようよ。何が良い?」


「猫動画で・・・つうか、悠里に連絡は?」


「終わったよー。明日の夜にお邪魔するってさ」


「はやっ!明日の夜かぁ。俺いるといいなぁ」


「遅くなりそうなの?」


「んー、なんとも言えん」


「じゃあ、平塚さんに連絡しとくね。あんまり遅くなったら許さないって」


「平塚の連絡先知ってんのかよ!」


「りゅーたの連絡先も知ってるよ?今日の朝、りゅーたが寝てる間に交換しましたっ!」


「え?パスワードは?」


「パスワード、楓の誕生日にしてたんでしょ?かんたんかんたんっ」


やっべぇ。俺の携帯のセキュリティーが。ガバガバだったな。


「そろそろパスワードの変え時かもしれない」


「楓の誕生日にしてるなんて、りゅーた、わたしのこと好きだったんだね?」


うりうり、と楓が後頭部を押し付けてきて楽しそうである。めっちゃ良い匂いがする。


好きだっていうのは、娘としての好きであって、それ以上は無かったんだが。


「楓は・・・本気で俺と結婚したいのか?」


「りゅーたのこと、好きだよ?りゅーたは、どうなの?」


「気持ちは嬉しいが、干支二周分の歳の差だぞ?」


「わたしがアイツのせいで男性恐怖症になったって言ったら、どうする?」


「そうなのか?」


「言ってみただけですー。でもね、大人を信じられなくはなったかな」


楓が携帯を置いて、ぐるりと回転し、こちらを向く。なんて窮窟な体勢なんだ。楓の顔がめちゃくちゃ近い。


可愛く、なったな。悠里に似てる以上に、瞳がぱっちりしていて、その目を見つめるだけで吸い込まれそうだ。


「わたしが信じてるのはりゅーただけ。だから責任取って?」


「妹尾くんとか、いいやついるだろ?」


「泰斗はね、お母さんいないから、ああ見えて甘えん坊なの。乃絵瑠ちゃんと付き合ってるんだよ?」


「マジかよ!全然カップルっぽくなかっな」


「人前でイチャイチャしないからねー、あの2人。だ、か、ら」


ちゅっ。


俺の頬に柔らかいものが当たる。


キス、されたのか。


「もうちょっと、楓のこと考えてね?わたしは、本気だから」


「わ、わかった」


「よろしい」


そう言って立ち上がる楓。


「着替えてくるけど、終わったら買い物付き合って!」


「食べ物、何も無いからな。よし、車出すか」


「いっぱい買おーっ!!」


楓さんは気合十分な様子。


明日悠里も来るなら、多めに買わなきゃならないしな。


楓のペースに巻き込まれているのは、自覚している。俺が主導権を握れそうにない。だが、こいつが楽しければ、それでいいんじゃないかな?

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