第16話 楓が悠里を超えた日


楓からの、悠里との話を聞き終わる。


「それで、悠里は俺から楓を遠ざけようとして、出て行ったってことか?」


「ううん、違うよ。お母さんは、ずっと悩んで考えて、りゅーたを解放することにしたの」


「解放って言うのは聞こえはいいが、悠里の言い方はまるっきり拒絶だったぞ?」


「お母さんは、りゅーたをこれ以上縛って、不幸にしてちゃいけないって考えたみたい。わたしのことも、ちゃんと考えてくれたんだ」


「楓のこと?」


「えっと・・・わたしがりゅーたのお嫁さんになりたいって言ったこと」


「ええー・・・」


「一度隆太と離れて、頭を冷やしてから考えてってお母さんが言ってた。だから、お母さんは恋活して、アイツを見つけてきたの。お母さんが違う男を見つけてきたのも、楓のためなの」


「なんだよ。俺は、何も、知らずに・・・」


「りゅーたが何もわかるはずないじゃん。わたしとお母さんの2人だけの話だよ?」


「いや、・・・・・・ああ、だから、楓は『また会いに行くね』って言ってたのか」


どうやら俺は、楓に助けてもらう途中だったらしい。


別に、あのまま、幸せに暮らしていても俺は全然良かったんだ。


だけど、俺の両親がいつまでも頑固で、結婚を認めてくれなかった。


楓のために苗字を川瀬にすることも考えていたのだが、どうやら、逆効果だったみたいだ。


両親に罵倒される俺を楓は近くで見ていたからな。俺の両親は楓には優しかったが、悠里のことになるとヒステリックになっていた。


それをなんとかしたいと思う、楓の気持ちはわかる。うん、楓、ごめんな。俺のために動いてくれたんだな。


んー、衝撃的すぎて、どう反応したらいいのかわからない。


楓の話は、信じる。だけど、俺はひとつ引っかかっていることがあった。


「なぁ、今の話の流れで、悠里が再婚する必要、あったか?」


「りゅーたに、お母さんを諦めてもらうためだよ。りゅーた、ここまでしないと、お母さんのことずっと守っちゃうじゃん」


あー、確かに。というか、楓がめちゃくちゃ計算高い子になってる。俺は苦笑いするしかない。


「なるほどな。納得した」


「りゅーたは、今の話を聞いても、お母さんと一緒に暮らせない?」


「楓、俺が悠里と暮らすかどうかは、悠里が決めることだ。俺じゃない。それとも悠里は、もう逃げるのが限界なのか?」


「まだ、大丈夫だと思う。2人で一ヶ月は逃げられるって言ってた」


まぁ、いつまでも逃げてるわけにはいかないだろうな。


悠里がこれからどうしたいか、それだけは聞きたい。


「悠里と、連絡取れるか?俺が会いたがってると伝えてくれ」


「ほんとっ!?りゅーたっ!!ありがとう!」


「おいおい、会うだけだ。まだ一緒に住むって決めてない」


「そ、そっかぁ・・・」


あからさまに、テンションが下がる楓。


ごめんな。おまえも色々と考えてくれてるだろうが、そんな単純な話じゃないぞ?


「早く、お母さんも解放してあげたい。アイツ、キモいもん」


「悠里にはなんもしてないのか?」


「楓にだけだよ。お母さんと一緒にお風呂に入っても、楓だけ見てくるっておかしいよねっ!?」


「そりゃおかしいな。最低のクズ野郎だ」


「アイツと一緒に住んで、りゅーたがどんなに良い人だったかって、今更気づいたんだよ?」


「そんなやつと一緒にしないでくれよ」


まだ、理解が追いつかない部分はある。


楓が2年で変わらなかったのは嘘だった。こいつは、10年の間に、すっかり大人の事情を汲み取り、楓なりに頑張っていたのだ。


それが知れた今、俺は何をすべきだろうか。


楓が携帯をいじってるのを見ながら、そんなことを考えていた。

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