第12話 楓の身に起こったこと
妹尾くんは、そそくさと帰ってしまった。彼をこれ以上巻き込みたくないとは思ったが、だが、もっとお礼を言いたかった。彼がいなければ、多分ここに楓は帰ってきてない。だから、また来て欲しいな。コーヒー好きかな?
楓がここに帰ろうとしてくれた意味を、彼女の願いを、俺が叶えてあげなくちゃいけないんだ。
二階から、2人が降りてくる音がする。
「あ、泰斗、帰った?」
「うん。話は、大体聞いたよ」
「そっか。あのね、今日は全部話すつもりだったの。聞いてくれる?」
「もちろんだ」
楓と乃絵瑠ちゃんがそれぞれ座り、乃絵瑠ちゃんが話し始める。
「あのぅ、楓ちゃんは、おじさんに言いにくいみたいなのぉ。だから、わたしから、説明してもいいですかぁ?」
「うん、いいよ」
「ではではぁ。まぁ、わたしも言いにくいのですが・・・楓ちゃんは、性的虐待を受けたみたいなのぅ」
俺はすぐに楓の顔を見た。楓が、顔を下に向けて俯いてしまっている。膝にあるだろう手が、肩が、ガタガタと震えていた。
「ごめんっ、りゅーたっ、わたしっ・・・!!」
涙を、ぽろぽろと溢す楓。
「謝らなくていい。無理にしゃべらなくていい」
ふざけんなッ!!何をしてんだよッ!!!楓に一体、何をしたんだッ!!!
俺は、できるだけ冷静であろうとした、だが、握り拳を作った手が、ギリリと音を立てる。
今すぐ、見つけ出して、殴ってやりたい!
「お、おじさん、落ち着いてぇ?」
「ごめん、大人気なくてさ、でも、楓が被害に遭ってるんだ。怒りをおさえられない」
自分のふがいなさも一緒に、怒りに任せてボコボコにしてやりたい。
あの時、それでもいいと言えたなら、楓が泣くことは無かったのだろうか?
「おじさん、続き、話すねぇ?楓ちゃんのされたことは、入浴を覗かれ続けたことなのぅ。だから、直接、何かされたわけではないみたいなんだけど・・・」
「十分、気持ち悪いじゃねぇか」
「それでね、楓ちゃんはお母さんに相談したら、出て行こうってなったみたいでぇ、とりあえず今は再婚相手からは離れられているの」
「悠里は、ホテルにいるのか?」
「楓ちゃんのお母さんは、ずっとホテルにいるよぉ?楓ちゃん、そろそろ話せる?」
「・・・うん、乃絵瑠ちゃん、ありがとう。自分で話したくないんだ。思い出すと、吐き気がするから・・・」
楓が、顔を上げた、目を真っ赤に腫らして、いつもの覇気のない、見たことがない、死んだような瞳をしていた。
「りゅーた、りゅーたとお母さんは、わざと子供を作らなかったでしょ?」
「うん、そうだな」
「お母さんは、その条件をまたアイツに求めたのが間違いだった。ごめんね、わたしのせいだって、言ってた」
アレのせいか。
いや、もう再婚する時点で、再婚相手が楓に狙いを定めていた可能性がある。そして、楓が被害に遭った時点でどんな言い訳も通用しない。
「警察に、相談したか?」
「したよ。実害が無いから、証拠も無いし、立件できない。早く離婚しなさいって言ってた」
「こんなに楓が苦しんでいるのに、実害が無いだと!?」
「りゅーた、だからごめん。お母さんの代わりに、謝る。わたしとお母さんを、匿って、くだ、さい・・・」
「それは悠里が望んでいるのか?」
「お母さんは、ここの敷居を跨ぐ資格が無いって、言ってた。でも、でもぉ。お母さん、可哀想だよ。りゅーたが、許してくれるならーーー」
又聞きを繰り返して、思考が追いつかない。誰が言ってた、言わないじゃ無い。俺は古い人間だ。本人が、来い!
「楓。俺は、悠里を許してる。俺と離れたことは、仕方がなかった。俺のせいでもある」
「ーーーだったら、」
「だけどな、あいつは、俺以外が良いんだよ。だから、俺から離れた。違うか?」
「ち、ちがう、もん。・・・楓の、せい、だもん。りゅーたとお母さんが別れた原因は、楓なんだよッ!!!!」
ダンッッ!
「楓!?」
「楓ちゃん!?」
楓が外に飛び出してしまった。
ダメだーーー今は、マズい。
俺はすぐに楓を追いかけた。
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