第10話 家に楓とその友達が襲来
15時に家に帰れた俺は、とりあえず二階から自分の私服を引っ張り出して着替えた。
これで大丈夫。楓たちはいつ来るかな、と座って待っていたところで、あることに気づいた。俺は楓の連絡先を知らないのだ。
うっかりして、聞きそびれていた。そんな初歩的なことにも気づかずに、合鍵だけ渡すなんて、常識外れもいいとこだ。
俺は案外、楓に会えて、泊まってもらって、楽しかったらしい。そして、楓にいなくなって欲しく無かったらしい。だから、無意識のうちに、何よりも先に合鍵を渡したんだと思う。
バカだなぁ。俺から離れていったやつを引き止めようとするなんて、俺らしく無いなぁ。まぁ、楓は仕方なく離れたんだろうけどな。楓の気持ちは昨日今日で、俺に十分伝わっている。
合鍵を渡した時の、楓の驚いた表情も納得である。順番がまるで違うからな。
と、玄関口から、鍵穴をガチャガチャする音が聞こえた。
「ありゃ?鍵が空いてる。りゅーたー?いるのー?返事してー?」
「おかえりー。俺はいるぞー?」
俺の顔を見て、安心したような、ほっとした顔をした楓さん。
「あ、りゅーた、ただいまっ!就活終わったんだね。良かったー!誰もいない家に帰るの、嫌だったんだ」
楓は友達を連れてくると言いながら、やっぱり心細かったらしい。そりゃ、そうだ。久しぶりに8年住んでた家に戻ったとしても、2年の間にここは他人の家に成り下がっていたのである。
「あっ、ごめんね?りゅーたが悪いわけじゃないの。ここに住んでた時は、いつもどっちかが家にいてくれたでしょ?りゅーたに会ったら、安心しきっちゃって、1人が怖くなっただけだから、ね?」
そうだったのか。どうやら、マイナス思考に寄ってしまう俺の思い過ごしらしい。確かに、少々過保護かもしれないが、楓には留守番をほとんどさせていなかった。
俺に不安を気づかれたくなくて、友達を呼んだんだな。
「なるほどな。それより、友達を待たせてるんだろ?入ってもらえよ」
「うん、わかった!おーい、ふたりともっ!入っていいよー!」
楓に呼ばれて、男女一名ずつが玄関に姿を現した。
知ってる方は、乃絵瑠ちゃんだな。
で、問題の男のほうは・・・
「紹介するねっ!早坂乃絵瑠ちゃんと、妹尾泰斗(せのおたいと)くんだよ?」
「おじさん、お久しぶりですぅ。痩せましたかぁ?」
「今日、違う人にも言われたから、そうなんじゃないかな」
乃絵瑠ちゃんはあれだな、言い方が古いかもしれないが、茶髪のゆるふわガーリーな女の子だ。おっとりとしてるのが喋っただけで伝わる。
「おっさんって、楓の、何?」
お、おう。妹尾くんとやらが、いきなり喧嘩腰だぞ?
妹尾くんは、坊主頭の、俺より少し身長が低い子だ。学ランを着ている。
「はじめまして、だね。妹尾くん。俺は、望月隆太って言うんだ。楓の養育者だ」
「ヨーイクシャ?大人だからって、難しい言葉使って逃げるなよ」
「ちょっと、泰斗?何回も説明してるじゃん、りゅーたはわたしの育ての親だって」
「なんだ、早くそう言ってくれよ。俺、難しいことはよくわかんねーけど、楓が困ってるみたいだから、仲良くしてます。宜しくお願いします」
おお、無礼なのか礼儀正しいのか、よくわからないな。この妹尾って子、良い子なのか?
「うん、宜しく。何もないけど、上がってくれ」
「「お邪魔します」」
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