第9話 コネを残していたので頼った


さてと。本当は今日からスーツを着て、2年ぶりに就活と言う名の、社会の荒波ってやつを体験しようと思っていたのだ。


だが、そんなことをしていたら、楓の友人たちに会うことはできなくなってしまう。


だから、スピード重視に切り替えた。最短距離を行ってやる。


俺は朝っぱらから数少ない友人の1人に電話した。


『もしもし、平塚か?』


『望月か。どうした?女でもできたか?』


『なぜ、俺に女ができたと思った?』


『働きたいんだろ?待ってたぜ』


さすがは社畜マン。自分が楽したいからって、俺を引き込むことしか考えてない。


だが、今は、すごい助かる。すぐ決めよう。決断が早いほうが、楓のためになる。


『そうだ、働きたいんだ。社会人として、2年のブランクがあるが、雇ってくれるか?』


『腑抜けだったやつが言うじゃねぇか。新しい彼女はどんな可愛い子だ?』


『中学生だ』


『は?ちゅっ・・・!?』


『安心しろ。俺の愛娘の楓のことだ』


『あー、びっくりさせんなよ。ん?ってことは、ヨリ戻したのか?正気の沙汰じゃねぇな』


『安心しろ。楓だけ、転がり込んで来たんだ』


『え?それ、いいのか?やめてくれよー。友人がタイーホとか笑えないんだが』


『勘違いしてるとこ悪いんだが、親子の関係は継続中だ。だから、真面目に働かなきゃいけなくなった』


『ふーん。理由としちゃあ、悪くない。いいぞ、俺の下でこき使ってやる。今から、来れないか?』


よし、好感触だ。友人の下で働くのは嫌だが、そうは言っていられない。時間の融通が効く職場は、こいつのいる会社しかない。


やってやるぞ。全ては、楓のためだ。





ーーーーーー







平塚の職場は、コーヒーサーバーや給茶器を個人と企業に設置してもらうための営業をやっている。


新規企業とかに売り込むと、意外とすぐに設置してくれるから、営業としては楽な部類らしい。


だが、アフターフォローが死ぬほどめんどくさいみたいだ。だから、平塚が俺を雇う狙いはわかってる。


設置した後のコーヒーカスの処理とお茶の販売。これを俺がやればいいんだ。


「よぅ。望月、また痩せたか?」


「不健康な生活してたからなー」


平塚に呼び出された俺は、応接間に通された。俺は久々にスーツを着ている。他には、誰も来ない。こいつに面接されるのか。なんか、癪だな。


「一ヶ月の試用期間があるが、大丈夫か?」


「なんとか、ギリギリな」


ほんとは収入がショボくても3ヶ月生活できるくらいには大丈夫なのだが、マジの窮地に陥ったら、誰も助けてはくれない。だから、わざと苦しいフリをする。まぁ、平塚相手にすることでもないけどな。


「一ヶ月後には、完全歩合制になる。自分の客を見つけるのが望月の仕事だ。ちゃんと俺が教えるが、最初は厳しいだろうから、俺の客をフォローしてくれたら、手当を出す。そんな感じだ」


「大雑把だなー」


「なに、すぐ慣れるさ。楓ちゃんとの時間が欲しいときは、。おまえは、時間も欲しくて俺を頼ったんだろ?」


「何もかも、お見通しか。お手柔らかに頼むよ」


「アホ。即戦力が来るって上には言ってあるんだ。結果を出しつつサボれ」


2年ブランクあるやつが即戦力?俺の履歴書に説得力がまるで無いが、それでいいのか?


とりあえず必要書類を出して、俺の入社はすんなり決まった。一通り挨拶を終えた後、明日からが本番ということで、帰宅の途に着いたのだった。

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