第6話 隆太さんに宜しく


楓が風呂に入ってる間、俺は携帯で正社員の募集をチェックしていた。


前の会社を辞めた時の退職金に手をつけてないから、当面の生活は大丈夫だ。例えになっても構わない。悠里がこっちに来ることは無いだろうが、確率がゼロではないので考えておく。


だが、3ヶ月後がキツそうだ。早めに正社員になって、安定した収入が必要だ。


テーブルの上の楓の携帯に通知がきた。


何気なく、文字を見てしまった。





『yuuri 隆太さんによろしくね』





何だ、これは。楓は黙って出てきたのでは無かったのか。


なんにしろ、母親公認なら話が早い。


俺は、携帯の画面を連絡帳に変えて悠里と連絡をとろうとして、ふと、自分の行動にストップをかけた。


連絡しないほうが、いいのか?


悠里がここに来ることをOK出してるってことは、家出の原因は再婚相手なのだろう。そんな気がした。


「あっちの連れ子はいないって聞いていたし、ますます怪しいよなぁ」


楓は、悠里が温泉旅行に行っていると言っていた。再婚相手も一緒に。だとしたら、俺から連絡したら悠里に迷惑になるかもしれない。


再婚相手にだけ家出を内緒にしている可能性を否定できない。だから、俺が今悠里に連絡を取ったら、再婚相手は怪しむだろうし、悠里の立場が危うくなるかもしれないのだ。


「楓、情報が圧倒的に足りないぞ」


俺の妄想が杞憂であってほしい。だが、楓の表情は幸せそうな感じでは無かった。


「悠里、任せろ。とりあえず、楓は預かるぞ?」


誰も聞いていないのに、思わず確認をとってしまった。




ーーーーーー





「お風呂、いただきました!りゅーたも入ってね」


髪をバスタオルで拭きながら、楓が戻ってきた。


楓は上下ピンクのスウェット姿だ。悠里は寝る時、パンツ姿で寝ていたので、楓が真似しなくて良かったと勝手に一安心していた。


「楓はもう寝るか?昔の布団が押し入れに入ってるから、適当に出していいぞ?」


「うーん、今日はりゅーたと一緒に寝たい気分だなー?」


「ダメだろ。俺とおまえは、もう他人なんだ」


ちょっとキツイ言い方をした。楓が俺に甘えたい気持ちはわからなくもないが、もう俺たちは家族ではない。


普通、年頃の娘は父親とは距離を置き始めるらしいのだが、楓は当てはまらなかった。そして、2年経っても相変わらずらしい。


「さすがにその言い方は傷つくよ?」


「事実だ。おまえ、再婚相手とも川の字で寝てるのか?」


「誰があんなヤツと」


心底嫌そうな顔をした楓を見て、確信した。原因は、父親にあるらしい。


「親と子は成長したら、離れて寝るのは当たり前だ。親子でもない俺たちは一緒に寝られない。わかるだろう?」


「どうしたら、一緒に寝てくれる?」


「おまえなぁ・・・」


「りゅーたの言ってることはわかるけど、わたしはりゅーただったら安心できるし、怖く無いよ?」


「抱き枕でも必要だったか?あいにく、捨てたんだが」


「えー!ペンギンのプルプルペンちゃん、捨てちゃったの!?鬼だ!ひどいー!!」


「楓のこと思い出して、辛かったんだ。ごめんな」


「罰として、わたしと一緒に寝るべきだよ?」


「なぜ、そうなる」


「わかったぁー、楓がおっぱい大きくなったから、意識してるんでしょ?」


「そんなわけないだろ」


「とりあえず、早くお風呂に入ってきなよ。髪乾かして待ってるからさー」


こいつを女性として意識するなんて、あり得ない。俺は、おまえの父親代わりやっていた人間だぞ?


楓が結婚して泣く心の準備まで、ちゃんとしてたんだからな!

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