第5話 楓と懐かしい話


さて、すっかり肉じゃがを完食して、楓と2人でほっこりとして座っていた。


「片付けするねー。あと、お風呂沸かす」


そう言って楓が立ち上がった。


あらためて、楓のことを観察する。


身長は、少し高くなったようだが、150cm代中間くらいだ。


黒髪は腰まで伸びている。目はパッチリ二重で、俺が言うのもなんだが、美人さんだ。絶対学校でモテると思う。


紺色のセーラー服の上にニットセーターを着ているのだが、セーターを


羽織るものをちゃんと着ないのはこいつの癖なので、気にしないが、他人から見たら着ている意味あるの?レベルである。


掃除や料理と、楓の成長している部分と、変わらない部分が見れておじさんは満足である。


「2階の洋服タンス、借りていい?」


「あー、あのプラスチックのぼろぼろのやつか?元々おまえのだろ?いいぞ」


「へへっ、やったぁー!楓の嫁入りどうぐー」


何が嫁入り道具だ。あのタンスは、おまえが保育所の頃からあそこにあっただろ。


「やっぱり、懐かしいなー。この家で、楽しかったな」


「二階で逆立ち歩き練習とか、やったな」


「懐かしいと言って、最初に出てくる思い出がそれ!?」


「楓が5歳の頃だっけ?最初、頭が重くて逆立ちできないから、支えてやったんだよな」


「小学2年の時、勢いつきすぎて、ふすまに踵で穴開けたやつじゃん!やだー!」


「あれはおもしろかったぞ?」


「あの時、びっくりして泣いちゃったんだよね」


思い出話をするなんて、俺も年取ったな。おじいちゃん感がやばい。


「りゅーたは、寂しく、ないの?」


悲しそうな顔で俺を見つめてくる楓。


ふん、大人を舐めるなよ?


「誰にも怒られないから、これはこれでいいぞ?」


「うそだぁー!りゅーた、前より元気無いもん。わかるよ?」


「年取っただけじゃないか?」


「38歳だっけ?結構おじさんだね。見た目ヒョロくて頼りない感じなのに」


「俺のことはいい。楓?おまえが家出した理由が聞きたい」


「・・・・・・まだ、言いたくないんだけど、ダメ?」


困らせるつもりは無かったのだが、明らかにテンションが下がっている。


はー、できれば状況を整理したいのに、こいつがこんな顔するのは嫌だな。


「・・・・・言いたくなったらでいい、言えよ?」


「怒らないの?」


「怒ってどーする。おまえは頑固だって知ってるから、無理に聞き出したって無理なことはわかるんだよ」


「やっさしー。・・・・・・うん。もうちょっと待って。ちゃんと、言うから」


「風呂が湧くまで時間あるな。久々にマリカーでもするか?」


「うん!するするー!!」


楓に笑顔が戻って、ほっとした俺。


女性が辛そうな顔や、悲しそうな顔をしていると、笑顔にさせたくなる病の俺は、今日も無意識に問題を先送りして、許してしまう。


だから、ダメだったんだ。悠里に良いように使われたんだ。


でも、今はいいよな?可愛い楓のためなら、優しくしたり、助けてあげても、いいよな?

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