第4話 楓の肉じゃが
楓が2階の掃除を終えて戻ってきた。
俺はトイレ掃除しかしてない。手際の良さで負けていて、大人としての面子が保てなくなっている。
さらに、浴室の掃除を始めた楓が、浴槽に謎の白い粉を撒いた。
「なにそれ?入浴剤?」
「過炭酸ナトリウムだよ?」
「はい?」
「これを使うと、皮脂汚れが落ちるんだよー。知らないの?」
知らない。掃除のトレンドなんて、わかるか!
「ま、シャワーしか使ってないから、そんなに汚れてないだろ?」
「使ってないってことは、全く掃除してないってことだよね?水アカやばいよ?」
楓はとことん家を綺麗にするようだ。金持ちの家にいるからか?以前より綺麗好きになったらしい。
だから、ますますわからない。なんで家出したんだろう?
「どうして、家出なんか・・・。何一つ不自由無く暮らしてたんだろ?」
「うーん、そうでもないよ?」
「再婚相手はドケチだったのか?」
「欲しいものは何でも買ってくれるね」
おかしいぞ。なぜそんな優良物件から逃げてきたんだ?
「よし、終わった!今からご飯準備するね」
「そのキャリーケースに入れてきたのか?」
「そうだよー。電子レンジは・・・使えるね。りゅーたは座ってて。温めて出すから」
ーーーーーー
待つこと5分。
出てきたのは肉じゃがだった。
ほかほかの肉とじゃがいもから湯気が立ち昇る。
「どうぞ、召し上がれ」
「頂きます」
俺はじゃがいもを一つとって食べてみた。
う、美味いぞ!?
硬いかと覚悟していたのだが、口の中でほろっと砕けて、優しい味が広がっていく。
「美味いなぁ。どこで覚えたんだ?」
「実は、りゅーたのために、料理頑張ったの」
「俺のため?」
なぜだ?俺はもう家族ではない。悠里からも、会わないように言われているはずだ。
「小学6年生の時は、離れてもすぐにりゅーたに会えると思ってたの。でも、お母さんが会いに行っちゃダメって言うから、我慢してたんだよ?」
そうだったのか。
悠里と楓が揃って俺を拒否したんだと思っていたが、どうやら違ったみたいだ。
楓だけは、変わらないでいてくれた。
その事実が、たまらなく嬉しくて涙が出てきた。
「りゅーたっ!?どうしたの!?やっぱり、おいしく、なかった?」
「おいしいよ。なんだぁ・・・俺はてっきり、楓にまで嫌われたんだと思ってたわ」
「りゅーたを嫌いになるわけないっ!!」
顔を横にブンブンと振って、一生懸命に否定してくれる楓。
良かった。いい子に育ってくれて、ほんとに良かったよ。
「ほら、冷めないうちにおまえも食べろよ?美味いぞ?」
「りゅーたは、何でも美味しそうに食べてくれるから、もうちょっと見ててもいい?」
そう言って、正座を崩さずに俺を見る楓。
2年でも、人は変わるもんだ。若い楓なら、尚更。
でも、変わらない優しさが、ここにあった。
俺は、久々に暖かい食事を楓と一緒に楽しんだのだった。
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