第3話 楓と掃除


空き缶をまとめる俺と、片っ端から掃除機をかけまくる楓。楓に掃除機で追いかけられるような感じになってしまっている。無言の圧が強いので、俺の片付ける手の動きが早くなる。


床が全て綺麗になり、ゴミをまとめる。特大サイズのゴミ袋、3つ分のゴミの量だ。まだ2つある部屋のうちの一部屋分だけでこれだ。げんなりする。


楓は掃除機の中のゴミを何度も取り出していた。だが、文句ひとつ言ってこない。言いたいだろうに。


楓は甘えん坊で、家事を手伝うやつではなかった。そんなやつが、ゴミと格闘してる姿に驚くばかりだった。


「ハケみたいなの、ある?」


「ほらよ」


「どうもー!」


ゴミが多すぎて、埃で詰まっているらしい。それを綺麗に掻き出していく楓さん。いつのまに、掃除なんてするようになったんだろう?


「ねぇねぇ、もしかしてりゅーた、ゴミに囲まれたくなるほど寂しかったの?」


「俺が寂しがるタチか?」


「そうだよね。変なこと聞いちゃった」


遠回しに心配してくれているのだろうか。


おまえと暮らしていた俺はもういないんだよ、と言おうとして、悲しくなってやめた。今は、掃除だ。


洗い場のゴミを取り除くと、濁った水が流れ出した。


食器や放置していた鍋の汚れがひどい。見て見ぬフリはやっぱりダメだ。


俺という人間が根本から腐る前に、楓が来てくれて良かった。


動き出してしまえば、簡単なものである。些細なことでも、きっかけさえあれば、部屋は綺麗になるし、気持ちが前向きになる。


洗い場から、楓を眺めていた。


見れば見るほど、悠里とよく似ている。親子だから当たり前なのだが、似すぎだ。悠里がいると錯覚する程度には。


「ほら、りゅーた!つっ立ってないで、手を動かす!」


「はいはい」


「はいは、一回!」


まるで悠里に言われているようだ。どうやら、母親の怒り方をそのまま楓が覚えたらしい。


どうやったら俺が動くか、までわかってるようで、思わず身震いしてしまう。


「夕飯、食べたのか?」


「わたし、ご飯作ってきたの。一緒に食べよう?使える食器、ある?」


「楓が、料理・・・・・・?」


「そんな目で見ないでよ。わたしだって、新しい場所で頑張ってたの。楽しみにしててね?」


プラスチックの包丁しか使えなかった楓が、料理か。俺の記憶をどんなに辿っても、全く期待することができない。


「おう。楽しみだな」


だが、楓の成長を楽しんでる自分がいた。そっか、楓が、料理を。


涙が出そうになるのを堪えながら、洗い場を片付ける俺だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る