第2話 楓の事情はわからない


「引っ越して無くて良かった!入ってもいい?」


「いや、待て。あいつはおまえの家出を知ってるのか?」


「お母さん?知らないよー?だって今、温泉旅行行ってるもん」


「おまえだけを残して?あのバカ、何を考えてるんだ」


「まぁまぁ、お母さんは、わたしに色々気を遣ってるんだよ。アイツはそうは思わないけど」


すっかり日が暮れた平日の夜、俺は怒りを覚えた。俺の元相方、川瀬悠里(ゆうり)は娘のことを第一に考えるやつだった。


だが、その母親は旅行に行き、その娘が俺の家に来てしまっている。


俺のところに来てしまったということは、楓にとって、何か不都合が起きているということなのか?


「ただ飯を食いに来た、わけじゃないんだよな?」


「だから、違うって言ってるじゃん。近所迷惑になるから、入るよ?」


そう言って、ドアを開けて入ってしまった楓。高そうなピカピカのキャリーケースも一緒にだ。


こいつ、本気で家出するつもりだったのか。


「おじゃましまーす、ってくっさ!なんでこんなにゴミだらけなの!?」


「・・・・・・おまえだけは、来てほしく無かったよ」


現状、今の俺は自立してるとは言い難い。というか、限りなく破滅に近いところにいた。


昼間から酒を飲むことはしょっちゅうだったから、缶ビールが床に散らばっている。あとは、ゴミが入ったコンビニの袋も。


ヤニだらけでカーテンが限りなく茶色に近づいているし、食器は洗ってないし、完全にダメ人間だ。


「りゅーた、このゴミ屋敷はどういうこと?」


「俺の他に誰も来ないんだ。好きにしてたさ」


「あー!もう!ダニとかいっぱいいそう!痒いのとか嫌だよ?」


そりゃあ、たくさんいるだろうなぁ。掃除機なんて、かけた記憶がない。


「すまん。二階はまだ片付いているほうだ。おまえはそっちにいろよ」


「りゅーた!!!」


ガラガラと、床の缶ビールが音を立てた。怒った楓が俺に詰め寄ってきたのだ。


「こんな家に泊まるのは嫌です!」


「じゃあ、出て行けよ」


「夜だけど、掃除する!りゅーたも手伝って!」

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