ニューヒーロー、入団!

朝倉亜空

第1話

「速報です。K大学野球部の中島和人が大阪ジャガーズにドラフト一位指名されました!」

 夕方のテレビのワイドショーで司会の男性キャスターが興奮気味にまくしたてた。

 今年のストーブリーグは、この男の話題で持ちきりだった。十年に一人の逸材と謳われ、走、攻、守三拍子そろった即戦力と、専門家も太鼓判を押すニューヒーローの去就に世間の目はくぎ付けとなっていた。

 そして、関西の名門大阪ジャガーズの指名通りに、中島は入団した。

 中島のポジションは守備の花形サード。だが、ジャガーズのサードには十年間、不動のレギュラーである実力者の石原がいた。中島か、石原か。キャンプ中、続いて、オープン戦期間と二人のレギュラー争いは激しく火花を散らし合った。

 迎えた開幕戦、ジャガーズのサードを守っていたのは中島だった。

「さすがはニューヒーロー。初戦でいきなり大活躍で快勝や」

「ソロホーマーを含む三安打は大したもんや」

「十年に一人の大器に間違いはなかったわい」

 大阪のジャガーズファンも大喜びで球場を後にした。

 残念なのは石原だった。守備争いで負けたまま、中島の控え要因、ほとんどがベンチの隅に座っているだけ、中島の疲労を抜く時だけがたまの出場機会となってしまった。

 八月、真夏の夜にそれは起こった。

「中島、お疲れさん。これでも飲めや。栄養ドリンクや」試合前のバッティング練習を終えた中島に、石原がドリンク瓶を手渡して言った。

「えっ、石原さん……、いただきます」

 受け取ったドリンクを中島が口へ近づけたとき……。

「あかん! やっぱり飲んだらあかん!」そう言って、石原が中島の手をはたき、瓶を落とさせた。

「な、なんッスか、石原さん」

「すまん、中島。今のは下剤入っとるねん。お前の体調崩して、代わりに試合出たろう思て……。悪かった。許してくれ」

「ち、ちょっと酷くないッスか。そんな汚い手を使わずに、男ならお互い実力をつけ合って、競うもんじゃないッスか。力がないなら、それまででしょ、石原さん」

「本当にすまん。うう……」石原は土下座したまま、顔を真っ赤にして泣いていた。

 この年、ジャガーズは見事リーグ優勝を飾った。打率2割8分7厘、ホームラン29本、盗塁数31盗塁と、ほぼトリプルスリーに近い成績を収めた中島の大活躍によるものだ。

「かぁー、日本シリーズは惜しかったなあ」

「如何にニューヒーロー、中島をもってしても、日本一は叶わんかったか」

「来年こそは日本一とトリプルスリー、中島にはええ宿題ができたで」

「ほんまやで。来年もわしら、楽しみやで」

 ジャガーズファンも大満足の1年であった。

 そして翌年。

 今年のニューヒーローはさらに物凄かった。面白いように、打って打って、打ちまくる。

 おかげでチームも開幕から破竹の勢いを見せつけ、シーズン通してその勢いが止まることはなかった。ぶっちぎりでリーグ優勝、クライマックスシリーズも危なげなく勝ち抜き、再び日本シリーズの大舞台にコマを進めていた。

「よっしゃー、ニューヒーローがやりよった。サヨナラ満塁ホームランやー!」

「自分の一振りで日本一を決めてまいよった。千両役者やで!」

「これがトリプルスリーと三冠王をダブル奪取した男の実力や!」

 遂に大阪ジャガーズ日本一。この見事な結果を受け、ジャガーズファンは歓喜に沸いた。球場内、割れんばかりの大歓声、そして、ジャガーズ応援歌が鳴り響く中、お待ちかね、ヒーローインタビューが始まった。お台に立つのはもちろんあの男!

インタビュアーがマイクを向ける。

「日本一、おめでとうございます!」

「ありがとうございます!」

「それにしても、この一年、本当に大活躍でしたね」

「ファンの皆さんの声援のおかげです」

「どうです、一年を振り返って、ここまでの結果を予想されていましたか。特に同じポジションには強力なライバルとなる先輩がいたでしょうに」

「ええ、自分でもびっくりです。でも、なんとか、サードの定位置争いにも勝ち得たと思っています。プロというのは実力の世界。彼にはそれが足りず、自分には勝るものがあった。弱肉強食、酷な様ですけど、そういうことです」

「ハハハ、なんとも手厳しいですな。さすがは百年に一人の逸材と言われることはある。これからも、素晴らしいプレーを見せて、我々を楽しませてください。では、ファンの皆さん、盛大な拍手を、この大型ルーキー、森山幸太郎選手に送ってくださーい」

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