冒険者の少年と武器屋のおじさん

雪見なつ

第1話

「おいおい、あいつまたスライムしか狩れなかったみたいだぜ。滑稽だな」

 周りの大きな体躯の男たちが一人の小さな少年を囲んで腹を抱え笑っている。少年は縮こまってその集団から顔を隠すように歩いた。

 大男たちはその丸まった背中を見て、さらに指をさして笑っていた。

 少年は腰に片手剣を提げ、左手には丸い盾をつけている。小柄な体に、幼い顔立ち。年はまだ十歳になったばかりである。背中には大きなリュックを背負って、ヨイショヨイショと一歩ずつ懸命に歩いていた。

 少年は木造の大きな建物の扉を開けて中へ入る。

 建物の名前は「オケアノス・ギルド」と書かれていた。

 中は酒場のように賑わっていた。鎧を着た男やローブを身に纏った女。種族も様々で、エルフやドワーフがいる。

 人の波をかき分けて少年はカウンターの前に立つ。背伸びをして顔をなんとか出して、カウンターに立つ女性に話しかけた。

 耳が長く尖り、綺麗な碧色の目をしている。川のせせらぎのような金色の髪を揺らして彼女は振り返った。

 ここの受付をしているエルフの彼女はこのギルドの華だ。

「これが討伐証です」

 少年はカバンから羊皮の用紙と小袋をカウンターの上に出した。小袋の中には緑色のスライムの破片が入っている。

「いつもお疲れ様です」

 受付嬢は用紙に判子を押した後、小袋を受け取ってカウンターの下へ隠れた。すぐにして顔を出して少年の顔を見た。

「手を出してください」

 言われるがままに手を差し出す。

 受付嬢は両手でその手を握ってくる。少年の手に銀貨を二枚乗せた。

「報酬はこれです。これからも頑張ってくださいね」

 ニッコリと花が咲いた笑顔をした。少年はボッと顔を赤くして踵を返して、ギルドの外へと出た。

「受付嬢さん。あんなやつに優しくする必要なんてないんすよ。それよりも俺らと遊ぼうぜ。ねぇねぇ」

「ダメですよ。悪口は。みんな頑張っているんですから、私も遊んでいる暇はありません。さぁさぁ、仕事に戻りますよ」

 受付嬢は後ろを向いて、書類たちと睨めっこを始めた。



 少年はギルドを出た後、細い路地を歩いていた。

 細い路地を抜けると、大きな通りが現れる。大きな道だが活気がなく薄暗いその道は、お金のない冒険者たちがこぞって訪れる場所であった。少年もその一人だ。

 道の端では、布を敷いて木箱に腰を下ろし暗い顔で商売をする人たちがいる。

 剣や薬草、鎧など売られているものは様々だが、どれも使われた後の中古品が多かった。

 少数の人は自分が作った武器や道具を売っている。大通りだと売れないから安値で少しでも売れて欲しくてこっちに来るのだ。

 少年は道を歩いて、店々を見て回った。そして、一つの店で足を止める。

 武器屋だ。

「また来てくれたんですね」

 その武器屋の店主が声をかける。小さな木箱に浅く座り、口には空のキセルを加えている。肌は黒く日焼けをしているようだった。手はゴツゴツとして、体の割に大きかった。

「おじさん、いつもありがとう。新しいやつ出た?」

「おうよ。一級品の奴があるぜ」

 男はそう言って、店に並ぶ片手剣を手にした。この店には盾と片手剣しか売っていなかった。この男はそれしか作れないのだ。だが、その一品一品は質の良いものだった。

 男はもった片手剣を振って見せた。その後、少年に持たせてやり「どうよ」と自慢げに鼻を鳴らした。

「これすごいですね。取手も握り心地が最高。形状も滑らかでかっこいいし」

 目をキラキラさせている。

「おじさん、これいくらで売ってくれますか?」

「そうだな〜。お前さんになら、銀貨に二枚で緩そう」

 少年はお金の入った小袋の中を覗く。銀色に輝く硬貨が二枚そこに見えた。それはさっき受け取った報酬だった。

 うーんと唸り声を上げて、最大限に困った表情をする。

「あの……。また来ていいですか?」

「おうよ! お前さんのためにこれは奥にしまっといてやる」

「おじさん、いつもありがとう!」

「また来いよ!」

 少年はおじさんの元を走って離れた。向かう先はさっき出たばかりのギルドだった。

(早く買わないと!)

 少年は心躍らせながら、裏路地を駆け抜けた。

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冒険者の少年と武器屋のおじさん 雪見なつ @yukimi_summer

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