第3話「一撃必殺!」
今朝、セシルちゃんが俺が泊まっていた宿の前で待っていた。
何事かと思い彼女の元へ行く。
「セシルちゃんおはよう」
「あ、アイトさん、おはようございます」
「朝からこんなとこでどうしたの?もしかして、俺に用事?」
「あ、はい!そ、その…」
彼女はもじもじとしながら何かを言おうとしている。そんなに勇気のいること…
…はっ!まさか!
*ここからこの男の勝手な妄想に入ります。しばしお付き合いください。
~妄想開始~
「わ、私…アイトさんの事、好きになってしまいました…っ//!」
「セシルちゃん…」
「私じゃダメですか?」
「そんなことないよ」
「ほ、本当ですか?!」
「あぁ。君のような可愛い子に言われたらなおさらだよ」
「か、可愛いだなんて…//」
「セシルちゃん…!」
「アイトさん…!」
~妄想終了~
そんな感じになるのか?!
*なりません
「わ、私も…」
「うん?」
「私もアイトさんの旅に付いて行ってもいいですか?!」
マジか!それはそれで超嬉しいんだけど!
「いいよ!」
「やっぱりそうです―え?今なんて言いました?」
「いいよ!」
「えーっ!そんなあっさり決めちゃっていいんですか?!」
「一人でするよりも、やっぱり誰かとする方が楽しいしね」
「迷惑を掛けるかもしれませんし…」
「迷惑は俺も掛けるかもしれないし、お互い様だよ」
「アイトさん…」
「だから遠慮せずに付いてきていいよ」
「…はい!では遠慮なく付いていきます!ふふっ」
なぁ神様。ここに天使がいるよ。俺、こんな子のそばに居てよろしいんですか?
ピロン
ん?一件のメッセージ?
―ええじゃろ by神―
怖っ!えっ、盗聴されてんの?!
「どうかされんたんですか?驚いた顔をされていますけど…」
「い、いや、何でもないよ!それじゃあ行こっか」
「はい!」
ピロン
ん、またメッセージだ…
―また聞きたいことがあれば何でも質問していいぞ! by神―
さっきのを質問として聞かれたっていうことか。はぁ、良かったぁ。俺の妄想も聞かれてたりしたらマジで最悪だと思ってたけどそんなことはないみたいだな。
一応返信しておくか。
…
~天界~
ピロン
「お、藍斗君から返信じゃ。どれどれ…」
―助かります by藍斗―
「こういうやり取りも悪くないのぉ。ほっほっ」
…
その後、午前中は一度この街を散策することにした。この町はアルクスという小さい町で特に盛ているという訳ではないが、この町に来る前に通った大きな山「ボルノ山」の麓にはかなり広い採石場があり、そこで採れた鉱物の取引などを行っており、その取引された鉱物を各諸国に輸出していたりする、いわゆる交易の町だ。
「へぇー、いろんな鉱石があるんだなぁ…うわ、たっけ」
「うーん…」
セシルちゃんは鉱石…というか値段を見て考え込んでいた。
「どうかしたの?欲しいけどお金が足りないとか?」
「あ、いえ…この鉱石は本来ここまで高くないはずなので、何かあったのかなと…」
「すまないねぇ、お嬢さんたち。今、採石場で問題があってねぇ」
店主らしきおじいさんが申し訳なさそうに話しかけてくる。
「どんな問題があったんですが?」
「どうやら採石場の辺りで手強い魔獣が出ているみたいで、今鉱石がなかなか取れずにいるみたいでねぇ。
「それは困りましたね…」
何このクエスト発生イベント感!
「魔獣も一体ぐらいならすぐにでも駆けつけて来てくれるじゃろうが、なぜか群れていて少なくとも五体はおるらしくてのぉ」
「群れているんですか?!」
「それって結構異常なの?」
「かなり異常です…!Bランク以上の魔獣は群れたりせずに一体一体それぞれが自分の縄張りをもって活動していて、自分以外の魔獣が縄張りに入り次第争いになるのが普通なのですが、今回のようなケースは初めて聞きました」
話を聞く限り、かなりヤバそうな状況みたいだな。
「そうなった理由とかってわかってるんですか?」
「最近各地で多発しておる魔力の乱れが関係しておるらしい」
「確かに、そのせいで異常気象や魔獣の活発化などもありますしね」
「はぁ、本当に困ったもんじゃよ」
…。
「じゃあ俺、その魔獣倒してきます」
気付いたら俺はそう言っていた。
魔王としての力で誰かの役に立ちたいと、心のどこかで思ったからだろう。
「アイトさんやめて下さい!おね…、勇者ならともかく、それ以外の人が一人で行くなんて自殺行為です!」
「そうじゃぞ。その気持ちは嬉しいが、死んでほしくはない」
「大丈夫です。これでも俺、かなり強いんですから」
「自信はあるかもしれませんけど、無茶です!冷静になってください!…もう、誰かが死ぬは…っ」
彼女は目に薄っすらと涙を浮かべていた。心配してくれているからかもしれないが、過去に余程辛い事を経験したように思える。しかし、ここで逃げたら、大勢の人たちが困ることになる。それは何としてでも避けなければいけない。
「ごめん、俺は本気で魔獣を倒しに行ってくる。君はこの町で待っててくれ」
「そんな!?…なら私も行きます!」
「いや、だけど…」
「お願いです…」
深々と頭を下げて、そう俺にお願いする彼女の姿にどうやら俺の心は負けたようだ。
「わかった。俺から離れないようにするんだぞ?」
「は、はい!」
「お前さんたち、本気で行くのか?!」
「必ず戻ってきますんで、それじゃ!」
「お、おい…!」
心配してくれているおじいさんをよそに俺は店を出る。
セシルちゃんはおじいさんにお辞儀をして後から駆け寄ってくる。
「死ぬんじゃないぞー!」
おじいさんの言葉を背に、俺たちは採石場の魔獣倒しに向かった。
…
~ボルノ山麓採石場~
「ここか」
俺たちは採石場の採石現場である洞窟の中に来ていた。
「魔獣が目撃されたのはこのあ辺りですね」
「意外とそんなに奥の方じゃないんだな」
辺りを見回してみるが、特にこれと言って…
「アイトさん!上です!」
「えっ?!」
言われて上を見ると、蜘蛛のような魔獣が五体、こちらを眺めていた。
げっ!俺、蜘蛛苦手なんだよ!
そうこうしていると蜘蛛は俺たちめがけて落ちてくる。
「きゃっ!」
「くっ!」
俺はセシルちゃんを抱きかかえ、走る…
ビュンッ!
そう、走ろうとしただけだった。それなのに今俺は、一瞬で二十メートル程移動していた。
「え?」
「た、助かったんですか…?って、はっ//!?」
「どうかした?!」
「い、いえ!その…ありがとうございました。も、もう、大丈夫ですので…」
「あ、うん」
彼女を降ろし、再び蜘蛛の方へ向く。
さて、こいつらには魔法の試し打ちの実験台になってもらうか。
どんな魔法がいいかなぁ。うーん…よし!
「セシルちゃん、もう少し下がってて」
「あ、はい…」
よし、ではお前たちには灰となって消えてもらおうか!
手のひらを蜘蛛に向け、炎の渦をイメージする。
「炎に焼かれて消えろ!」
すると俺の前に巨大な炎の渦が出現し…
「ファイヤーストーム!」
その言葉と共に炎の渦は勢いよく伸びていき、たちまち蜘蛛たちを飲み込む。
「す、すごい…!」
こんなもんでいっかな。
俺は炎を消し、前方を見てみる。
「お、結晶になってるなってるぅ!」
洞窟にいた五体すべての蜘蛛は俺が放った炎に焼かれて結晶となっていた。
「フン!」
俺はセシルちゃんに向かって自慢げに親指を立てる。
「まさか本当に倒しちゃうなんて!しかも一撃で!」
「言ったでしょ?かなり強いって」
こうして魔獣倒しを無事終え、採石場の人たちに報告した後、俺たちはアルクスへと戻った。
間違えられて超嫌われてる魔王に転生してしまった。 愛崎楽太 @Rakuta_aisaki
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