第2話「魔王、美少女を救う」

「よし、飛べ!」


そう唱えると一気に上空へと飛び上がる。


「うぉー!」


俺は今、魔法で空を飛んでいる!この事実に興奮が抑えきれない!


「最高だぜー!イヤッホォ―!」


俺の声が響き渡っているのがわかる。まぁ人っ子一人いないんだから叫んでても問題はないだろう。はぁ、なんて解放感に満ちているんだ。とても心地がいい。


「よしここはウル〇ラマンように、シュワッ!」


これは男の子の夢なのです。温かい目で見てやって下さい。

そんなふざけているとき、ふと、あることを思い出す。


「あ、そういえばあの神様、自分のステータスを見ることができるって言ってたな」


教えてもらった通りにステータスを開き、どんなものかと見てみる。


「まじか…」


そこには体力、魔力、速度の三つのメーターと所持スキルが表示してあるのだが、体力、魔力、速度はともに計測不能と書かれており、所持スキルには全スキル獲得済みと書かれていたのだ。


「チート過ぎるだろ…ん、メッセージ?」


ステータス画面の端に一件のメッセージという文字が表示されていたのでそこをタップしてみる。そこにはあの神様からのメッセージがあった。


「詫びとして、負けんようにしといたぞ!」


「いや、やりすぎだろ」


あの人、自分が神ということを少しは自覚した方がいいと思う。俺みたいになる人を増やさないためにも。


「他にはなんか書いてあるのか?…ん、対魔力感知設定?」


そこには相手に俺の魔力を感知されないようにするかしないかが設定できると書いてあった。これはされないようにしておくのがいいんじゃないかと思い、感知されないようにしてみる。


「でもこれ、相手がいないと確かめようがないな…お、丁度いいところに第一動物集団発見!」


地上にいる動物のもとへ降りていき、恐る恐る近づいてみる。

動物たちはまだ気づいていないみたいだ。


「それじゃあ、切り替えてみるか」


感知されるように設定を変更する。すると…


キュゥッ!


ダカダカダカダカ


「え」


一番近くにいた動物はおろか、その付近にいた動物たちもビビるように逃げていった。このことから俺は、感知されないようすぐに切り替えた。


それから約一時間後、神様が言っていた山が見えてきた。富士山くらいはある結構大きな山だ。近づけば近づくほどその迫力は増していく。


「まっ、俺の迫力には劣るがな!」


言ってみただけです。気にしないでください。


「さて、この山があるってことは目的の町も近いってことだな。日が暮れる前には着いておこ」


その時だった。


「キャーッ!!」


「今のは悲鳴?あそこら辺だったな」


悲鳴が聞こえたあたりまで降下していく。


…すると


怪物が女の子を襲おうとしていた。


「やべぇじゃん!」


俺は急いでその子の元まで下りていく。


「うおぉぉ!」


「えっ…?」


ヒュー…ドーン!


「きゃっ!」


落ちてきた衝撃で辺り一面に砂埃が舞い上がる。


「エホッエホッ、ウエホッ!」


「だ、誰…?」


「ンンッ!あーもう、砂埃たちすぎ!全然見えねーじゃん!」


砂埃のせいで視界が悪くなり、周りが全く見えず、女の子がどこにいるのかわからない。


「えーっと、君を助けに来たんだけど大丈夫?」


「私を?」


「そう!ケガとかしてない?」


「は、はい。大丈夫です…」


「良かった」


そして、砂埃は収まり視界が良くなっていく。

おっ、見える見える。さて女の子は…いた!


「間に合って良かった…」


女の子に近づいた瞬間、俺は固まった。

神々しく輝きサラリと腰まで伸びた長い金髪に、青く透き通った瞳に、整った顔立ち、そしてちょっと控えめなスタイル…それは正に


俺の好みにどストライクだった!


「あ、あのー?大丈夫ですか?もしかして、落ちてきたとき頭を強く打ったんじゃ…!」


「へ?あ、いやいやいや、大丈夫、大丈夫!心配してくれてありがとう!」


こんな時に俺の心配してくれるなんて、好感度上がりまくるだろ!もう!


*この男、少々気持ち悪いですが耐えてください。


「立てる?」


「ごめんなさい、腰を抜かしてしまって立てなくて」


「そっか…じゃあ、はい」


俺はしゃがんで彼女に背中を向ける。


「えっ」


「ほら、おんぶしていくから」


「い、いや、悪いですよ、そんな!」


「いいからいいから」


「で、でも…私、重いかもしれないし」


「スタイルいいんだから、そんなことないって」


「~っ//」


すると彼女の顔はたちまち真っ赤になっていく。

もしかして今の俺、セクハラ染みてたかな?!


「ほ、本当にいいんですか?」


「へっ?あ、う、うん。大丈夫だよ」


「じゃあ、お言葉に甘えて…」


そう言って、彼女は俺の背中に寄りかかる。この時、俺はめちゃくちゃドキドキしていたが、それを誤魔化すように急いで立ち上がり、背中に彼女を背負いながら歩き始める。

ちなみに怪物はと言うと落ちてきたときに下敷きになって一発KOになり、そのあと結晶のようなものになって、自然に俺のアイテムボックスへと入っていった。どうやらさっきのような怪物や魔獣とかを倒すとそうなるらしく、その結晶はのちに換金したり、ほかのアイテムと交換できたりすると道中に彼女から教えてもらった。


「そう言えば、自己紹介がまだでしたね。私はセシル・ランクスと言います。新米魔術師です」


「俺は蜂谷藍斗。あ、名前が藍斗ね」


「名前が後にくるということは、東方の大陸のご出身なんですか?」


「え、あ、うん。そうだよ」


よし、今度から出身地はそう言っておこう。異世界から来ましたー。なんて言えるわけがねぇ。


「何をなされているんですか?」


「世界中を旅してるんだ(嘘)」


「そうなんですね。長いこと旅をなさっているのですか?」


「いや、まだ始めたばかりで、どこかに行ったとかはまだないな(本当)」


「旅ですか、いいですね!」


彼女と会話をしながら歩いていると時間はあっという間に過ぎていき、気づけば目的の町の手前まで来ていたのだった。


「アイトさん、ここからは自分で歩きますので」


「あ、わかった」


「おっと…!」


彼女が倒れそうになったため、すかさず支える。


「大丈夫?まだふらついてるようだけど?」


「えっ、あ、はい…っ//」


突如彼女の顔が赤くなる。何故かと思い今の状況をよく見ると、俺が彼女を抱き寄せている形になっており、顔も近い距離にあった。

その状況に気付いた瞬間、自分の顔も赤くなるのを感じた。


「あっ、ご、ごめんっ!」


「い、いえ!ありがとうございます…」


気まずくなり、沈黙が訪れる。しかし…


「ふふっ」


「え?」


彼女が微笑み、すぐに沈黙が終わる。


「い、いえ、ごめんなさい。ちょっと可愛らしい方だなと思いまして。あっ、ご不快に思われたらごめんなさい!」


「いや、そんなことないよ、うん」


今の彼女を見ていると鼓動の高鳴りが抑えられそうになかった。それほど今の彼女は魅力的に見えるのだ。


その後、町へ入り別れようとしたが、彼女から今日のお礼としてせめて夕食だけでも奢らせてほしいということで、一緒に食事に行き、なかなか美味しい料理をご馳走になり、なんだかんだでいい感じに異世界ライフ一日目は終わったのだった。




ある王国の大聖堂は再び騒ぎが起こっていた。


「強大な魔力の感知が途絶えました!」


「何?!魔王が消えたということか?!」


「わかりませんが、さっきまであった強大な魔力は感知しません!」


「助かったの?世界は救われたの?」


「えぇそうよ、きっとそうよ!」


『うわーーーーーーぁん!』


「ならばこれで、災いは起きずに―」


「ふ、再び強大な魔力を感知!」


『えっ』


「いやーーー!!もうお終いよーーー!!」


「クソッ!やはり、災いは起き―」


「あ、再び消えました…」


「お前、遊んでないよな?」


「違いますって!」


大聖堂の人たちは、再び魔王を感知しないか、一日中怯えていたという。

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