003 

 花生はなお まい。自殺した松永 友介が恋した相手だ。松永だけではない。ボクを含め男子のほとんどが、彼女を感染源とする恋患い患者だ。

 花生 舞をどう表現したらいいのだろう。彼女の魅惑を伝えるに、言葉はあまりに非力だ。

 ――ただみ。

 一年ごとに綺麗になる。一年ごとに感染者が増える。いま高二。十六歳……

 ――只見。

 ピークはどこだ? 感染爆発は、いつだ?

「只見 有人ゆうとッ!」

「はいッ」ボクはあわてて声の方に顔を向けた。

「ぼーっとして。なに考えてるんだ、オマエ」

 担任でもある、国語教師の多良林たらばやしが睨んでいる。

 げらげらと笑いが包む。

「小説のネタか? おまえの小説はやたら滅入る」

「せんせー! その話はナシ」ボクは頬を火照らせて抗議した。

 文芸部の顧問だからって、ここで作品批評はないだろう。

「オマエ、今どこのページやってるか、わかってるか?」

 後ろのヤツがページ番号をささやいてフォローしてくれる。あわててそのページまで繰る。

「第二章から朗読」多良林は命じた。

 起立して読み始める。とりあえず、花生を見てたことを指摘されなくてよかった。

 当の花生は振り向いてボクを見ている。花びらのような唇がほころぶ。

 笑った。松永のことで落ち込んでいるけど、笑ってくれた。

 自分のボケでも笑顔にできたなら嬉しい。それだけで今日一日幸せでいられる。ちょっと大げさかな。

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