004
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文芸部の部活を終え玄関で靴を履き替えていると、呼ぶ声が聞こえた。
「タダモノぉ」
ヤツはボクを〈只者〉と呼ぶ。実際、ボクのステータスはどのパラメータにおいても中央値で、そう呼ばれることに異存はないが。
連れ立って校門を出、町への坂道を下る。
「おまえの小説は、やたら滅入る」初則は多良林の口真似をした。
「ほっとけ」
「ホントは花生を見てたくせに」
初則の席はボクの後方。すべてお見通しだ。
「脳内ファックしてたな」眼鏡の中で細い目が好色に笑う。
それはおそらく、多くの男子生徒が行う罪深き行為であろう。ボクも脳内で何度も花生を抱きしめた。でも、無念なことに、感覚は想像するしかない。哀しいかな未経験なのだ。
「花生を見て考えてた。なんで松永は死ななければならなかったか」
「うむ」初則は眉根を寄せる。「ルビコン川を渡ったのだよ」
「花生に
「姫に手が届かぬなら生きていても意味がない。そう思ったのだろう。だが、これで花生に
「死んじゃうくらい好きだったんだな」
自分の気持に重ねれば実感できる。ただ、松永はレベルが違った。成績はトップ。所属するラグビー部では、一年生から華のセンターを任された。ラグビー名門大も注目する逸材らしい。去年の文化祭ではピアノ演奏も披露している。クールな顔立ちの、病院の御曹子。天が二物も三物も与えた男の手は、それでも花生に届かなかった。
「オトコとオンナはわかんねえよ」初則は利いた風な口をきく。女性経験があるヤツの言はそれらしく聞こえる。
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