「名探偵・浅宮雄介の失敗」「名探偵浅宮雄介の謎解き」本好き文学少女との交流を、書籍に准えた表現が随所に差し込まれてくる構成が、好みであり巧みでした。
主人公が中学卒業後久々に出会った同級生の女の子、大沢澄香と、まったりと書店で過ごす日々を丁寧な筆致を持って描き出しており、不思議な暖かさをともなう世界観に、ぐいぐい引っ張り込まれていく感覚があります。
『その笑顔はとても素敵で、しおりを挟みたくなるような瞬間。心奪われるってこういうことを言うんだな。だが、そんな一瞬もあっという間に終わった』
この一文が、特に素晴らしいですね。
人の心はひとつずつ生まれ、育まれ、けれど忘れられて何時しか消え去っていくもの。
出会いの裏に、同じ数だけの別れがあるのです。それでも、忘れられない記憶がある。恋とは長さではなく「密度」なのでしょうか?
切ない恋の行く末を、あなたも見届けてみませんか──?